教育の現場から、農業の未来をつくり、つなげる。東京都立園芸高等学校 蓮沼 実知先生
野菜科学研究会では「未来の日本の食を支える」をテーマに、3回にわたり東京都立園芸高等学校を取材してきました。
園芸高等学校と野菜部の活動の様子、生徒さんへのインタビューに続き、こちらの記事では野菜部顧問である蓮沼 実知先生にお話を伺いました。
園芸高等学校の生徒や野菜部の部員と関わる中で、蓮沼先生はどのようなことを生徒たちに教え、また、日本の食の未来について、どのようなことを伝えているのでしょうか。
じっくり伺ってみました!
ーー蓮沼先生が、農業高校の教員になりたいと思ったきっかけを教えてください。
蓮沼:実は、私もかつて、農業高校に通っていたんです。その後、大学に進学して就職前に進路に悩み、色々な場所にインターンシップに行きました。そんな中で、改めて自分の人生を振り返った時、一番印象に残っているのは高校生活だなと。農業高校は実習が多くてすごく忙しいし、もちろん辛いこともありましたが、それを上回る楽しいこともあって。思い返してみたら、全部がすごくいい経験だったのだなと、改めて感じましたね。
高校時代、私に厳しい声をかけてくれた先生や、悩んでいた時に支えてくれた先生のお陰で今があるので、農業高校で学んでいる生徒たちのことも、同じように支えてあげたいなと思ったことから、農業高校の先生になることを決意しました。
ーー入学当初と比べて、野菜部の生徒さんたちの野菜園芸に対する意欲に変化は見られますか?
蓮沼:野菜部に入っている生徒たちは、特に、授業の実習時間中の動きに変化があると感じています。実習では、基礎を固めるところから入っていくため、最初はほとんど先生が指示をしてそれをこなしていくということが多いです。でも、野菜部の部員は、わりと早い段階で自分で考えて行動できるようになっている子が多く、部活動で取り組んでいることが活きているのかなと思います。レポートの内容にも現れていますね。例えば、発芽率が悪かったとき「悪かったです」の一言で終わらせずに、「なぜ発芽率が悪かったのか」と理由にまで考察することができていると成長を感じます。農作業を通じて、自主性や主体性が身についているのではないでしょうか。
ーー素晴らしいですね! 野菜や農業の授業では、どのようなことを教えられていますか? 実習の内容についても、詳しく教えてください。
蓮沼:まずは、代表的な野菜の栽培方法についてですね。学年ごとに育てる野菜は異なっており、上級生になるにつれて難易度が高い野菜になります。あとは、害虫の防除法についても教えています。
実習の中では、栽培計画・管理を学ぶだけでなく、肥料による違いがあることなども実際に試しながら教えています。同じ作物でも使う肥料を変えることで、比較して違いを確認するなど実践的に行っています。
2年生になると、JGAP(※)の栽培管理についても学ぶようになります。東京都立園芸高等学校の施設は、JGAP認証を取得しているんですよ。
(※)JGAPとは:https://vegetablescience.org/professional/2229
ーー近年、農業を取り巻く環境が変化していますが、農業高校のカリキュラムにも変化がありますか?
蓮沼:私が学生の時と違い、ICTを取り入れた授業をすることが多くなりました。例えば、圃場の温度測定、ハウスの温度管理なども、今は自動でデータが送られてきてアプリで管理できますし、得られた数値データを基に計画を立てるなど授業でも活用しています。先ほどお話ししたJGAP認証に関しても、毎日データを基に温度管理をしたり、得られたデータを分析して活用したりすることを授業の中で行っています。
ーー地元の農家さんや農協とは、何か連携した取り組みをされていますか?
蓮沼:園芸高等学校の近隣には農家さんが多いので、圃場の見学させていただいたり、実習に行かせていただいたりしています。近々、トマト農家さんに行く予定もあります。学校の中にもトマトの圃場はあるのですが、農家さんに比べたら全然小さい規模なので、実際の現場での栽培管理を知ることはすごく重要です。
他にも、提携している農場にインターンシップを受け入れてもらっています。今年は、群馬県の農家さんにお願いして、10日間生徒を受け入れていただきました。
ーー最後に、園芸高等学校の生徒たちに農業の未来について、どのようなことを伝えていますか?
蓮沼:一般的に農業に対する世間の印象は、重労働、儲からない、高齢化というイメージがあるかもしれません。しかし、農業は人間の生活と切り離せない大切なものだと思っています。食材をつくることは、多くの人の人生を支えていると言っても過言ではありません。この学校に通う生徒たちは、自らその道を選んでここに勉強しに来ており、その心意気で農業の未来が明るくなっていると感じています。
生徒には、この学校を選んで勉強しに来ていること自体がすごく社会に貢献できているし、それだけ農業の未来に繋がっていくんだよということを、常に伝えるようにしています。
野菜にまつわる最新情報や信頼性の高い情報をコラムでお届けする「ヤサイラボ」の特別編として、「日本の食の未来を支える」をテーマに、東京都立園芸高等学校をクローズアップしました!
東京都立園芸高等学校から、私たちの日本の食の未来が支えられ、つくられていると考えると、今後もその活動から目が離せません!
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