ヤサイビト_繁昌智洋

農家と消費者がつながって、地域のみんなで農業を盛り上げたい!繁昌農園の繁昌さんが見つめる農業の未来

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多摩川の上流域に位置し、東京都のなかでは自然が豊かな青梅市にある繁昌農園の繁昌知洋さん。

大学では海洋生命科学について学び、生物や自然環境への高い関心を持ち、日本の農業全体が関える問題への危機意識をもって20代で農業の世界へ飛び込みました。

都心のマーケットに出店したり、消費者向けの収穫体験を企画したりと、消費者に近いところでコミュニケーションをとりながら、農業にまつわる最先端の仕組みにも積極的に取り組んでいらっしゃいます。

そんな繁昌さんに就農のきっかけから、現在取り組んでいることなど、たっぷりとお話を伺いました!

繁昌知洋さん

繁昌 知洋/繁昌農園

東京都出身。北里大学海洋生命科学部卒業後、青果店に勤務。その後、アグリイノベーション大学校に入学して農業について学ぶ。東京都立川市の農園で2年間研修した後、2016年に東京都青梅市で新規就農。2021年東京都GAP取得。地域と共に農業を盛り上げるためCSAに取り組む。野菜ソムリエ。

繁昌農園 公式サイト https://hanjo-farm.com/

日本の農業が抱えている問題への危機感から就農へ

確かに、大学では海洋生命関係の勉強をしていました。昔から、生き物や自然環境が大好きだったんです。海の食物連鎖は、沿岸部に小さなプランクトンが増えて、それを小魚が食べ、その小魚を大きな魚が食べるというピラミッド構造になっています。その大もとのプランクトンが繁殖する要因は何かと言うと、川から海に流れ込んでいるミネラル分などの栄養素がとても重要な役割を果たしているんですね。では、その川に流れてくる栄養分はどこから来るかというのを調べていくと、森や山の土から来ている。海の生物の繁栄は森が支えているということで、「森は海の恋人」とも言われているくらい欠かせない存在なんです。

就職するときに、海ではなく森に近いところで、加えて「生物・自然環境」に密接に関わる仕事をしたいなと考え、農業を選択することにしました。野菜を育てるのに重要な土づくりではいろんな微生物の作用が働いていて、学生時代の研究にも少し近いところがあるかな、と。

それに加えて、今、日本の農業全体が抱えている問題への危機感もありました。例えば、高齢化や跡継ぎ不在のため、耕作放棄地が増えています。今のところは輸入できているから表面化していないだけで、食料自給率の問題も、色々考えていくとちょっと怖くなりますよね。若いうちから農業を始めたら、 何か面白いことができるんじゃないかという思いもあって農家を目指した感じです。

繁昌知洋/繁昌農園

僕、生まれは東京の小平市なんです。小平も比較的自然が残っている所ではあるのですが、農業をやると考えた時、近くに森や川があるような自然豊かな場所でやりたいと思っていました。東京にこだわりがあったわけではなかったので、最初は千葉や長野で就農を考えて探していたんですが、ご縁が無くて。そのうち、青梅で新規就農を募集しているのを知りました。青梅は、小さい時から両親が山や川遊びに連れて行ってくれた場所でもあるし、都心に近いので多くの人に食べてもらえるんじゃないかと思って。青梅で農地見学会のツアーがあった時に知り合った農業委員の方がとてもいい方で、所有者の方から畑を斡旋してくださり、農家としてスタートすることが出来ました。

消費者とつながりたい!直接のコミュニケーションでファン作り

2haの畑で、年間約200品種の野菜を栽培しています。大雑把に言うと西洋野菜、特にカラフル野菜というのが多いですね。あとは、江戸東京野菜と言って主に東京で伝統的に育てられていた野菜も栽培しています。

単純に、僕が作ってみたい、食べてみたい野菜の種を買ってきて育てていたら、200品種になったという感じですね。消費者の方の声も聞いて、ニーズに答えながら作付け計画を立てて育てています。

販路に関していうと、最初はスーパーや直売所に出品していましたが、売れ残ったら回収しないといけなくて大変だったんですよ。消費者とつながりを持ちたいという思いがずっとあって、消費地に近いからこそできる農業があるんじゃないかと考えていました。農園のファンがいたらもっと売れるのではと考え、青山辺りのファーマーズマーケットやマルシェに積極的に出店して、まずは「繁昌農園」という存在を知ってもらう機会を作りました。

消費者に、どういうコンセプトで、なぜ青梅で作っているのかということを知っていただけるようなコミュニケーションを取るようにしました。そうしているうちに、購入してくださった方がちょっとずつ口コミやSNSで広めてくれたりして、購入希望者が増えてきました。最近は、個人宅配をしたり、地元のマルシェや無人直売所を作って販売しています。

繁昌農園

特に苦労したことはないですね。これは青梅市だからかもしれませんが、農業委員さんや地元の方々は新規就農者を受け入れてくれる気質の方が多くて、とても良くしていただいています。

この辺りは都心にも通勤できるので、お子さんが実家の農業を継がずにサラリーマンになる人も多く、担い手がどんどん少なくなってきているんです。でも、畑をそのままにしておくと草がぼうぼうに生えてしまって景観が悪くなるので、それだったら新規就農者でもいいから貸すよ、という感じの人が多いですね。

青梅は自然が豊かな所ですが、それでもやっぱり東京なんです。昔からの慣習とか、大変な近所づきあいとか、よそ者を排除するような雰囲気は無いですね。あと、消防団に入ったのは良かったですね。消防団は、地元のつながりを深めるためにすごくメリットがあります。

積極的に仕組みを取り入れ、農家の思いを共有しながら、消費者とともに地域の農業を盛り上げる

僕がここで農業を始めて7~8年経ちますが、確かに毎年暑くなってきているのを肌で感じます。そのため野菜の種類を絞って作ると、気候によっては全滅することがあるので、なるべく多品目の野菜を作るようにしています。ある野菜がダメになっても、他の野菜でカバーしてくれるみたいな感じですね。他にも夏だけではなく冬も暖かくなっているので、天気の長期予報も参考にしながら種蒔きの時期を早めるなどしていますね。

GAPというのは、わかりやすく言うとリスク管理とか、リスク評価のことです。

「Good  Agricultural  Practice(良い農業を実践する)」の略で、農業を行う上で、食品安全、環境保全、労働安全などを持続可能にするための取組として、東京都が認証している制度です。

(※GAPは農水省が策定したガイドラインを基に都道府県毎に認証する仕組み)

例えば、飲食店が料理を作って提供した際に何か問題があったとします。その問題が飲食店の責任では無く、原料として使っている農産物に問題があったとしても、生産・保管などの、どの段階で問題が起こったかはわからないんです。そこで、農家も企業などとと同じように、リスク管理やリスク評価をして対策をして記録を残し、何か問題があった時には原因をたどれるようにするのがGAPなのです。

これまで、一般的な農家では同じ倉庫の中に農薬も肥料も一緒に保管していて、その横の作業スペースに野菜の出荷台があったりして、リスク評価を全くしていない状態が多かったんです。もし、野菜に農薬や肥料などが付着して消費者の口に入ってしまったら、問題になります。それで、農家もある程度管理ができる仕組みを作っていこういうことで、GAPが出来たのです。

繁昌農園の繁昌さん

東京都の場合は、約200項目のチェックシートがあり、それをクリアする必要があります。もちろん、農家単独で実践するのは難しいので、指導員にアドバイスをいただきながら取り組みました。

リスク評価が出来ていなかった点ですね 例えば、収穫物のすぐ横に出荷台があったりとか、隣に別の種類の野菜を置いたりしていました。あとは、整理整頓ですね。どこに何があるかというのを、誰が見てもすぐ分かり、手に取れるような状態にしておくことが大切です。一人で作業する分には問題無いんですが、社員、パートさんや研修生が入った時、誰もが同じように作業できる環境にするのもGAPの目指すものの一つなのです。これまでは、そういったことが出来ていなかったなと痛感しました。

第一に、自分自身の意識が変わることですね。当たり前ですが、食べ物は安全性がすごく重要ですから、そこを担保するために野菜の管理に対する意識が強くなりました。次に、第三者の視点から客観的に農園を見ることが出来るようになった点です。より良くなるように考えながら農業に向き合えて、勉強になっています。

僕の取引先では、今のところは無いですね。GAPは海外では普及していますが、日本ではまだ一部の農家しか認証を受けていません。元々、東京オリンピックの選手村で使用する農産物の安全性を保証するため、まずは東京都の農家からGAPを取っていくようにということで普及を試みたのですが、それがまだ広がっていない状況です。でも、今後はGAP認証を納入の条件とする会社は増えていくと思いますし、今、政府が力を入れている海外への輸出となったら必須ですよね。

「CSA」は、「Community  Supported  Agriculture」の頭文字で、日本語にすると「地域支援型農業」と呼ばれています。正直、言葉だけだとよくわからないですよね。分かりやすく言うと、今までは「農家が作った野菜を消費者が買う」という一方通行の関係だったのを、「地域住民が地元の農家を応援しよう」という取り組みです。 

具体的に何をするかというと、例えば地域の人たちが近くの農園に半年分とか1年分の野菜セットの代金を前払いして、農家はいただいた代金をもとに種を購入したり、肥料などを購入して育て、収穫された野菜をお客様に還元するというイメージですね。

サブスクと比較されますが、全く違っていて、お客様が農家を応援しつつ、農家のリスクも共有するんです。 台風や天候不良などの影響で野菜の収穫量が減ることもありますよね、そういう時はお客様にお届けできる野菜も少なくなります。逆に、豊作の時はたくさん還元する。そうやって農業の楽しさや大変さ、農家の思いを共有しながら、地域の農業を盛り上げていくのがコンセプトですね。

農家から野菜を届けるだけの一方通行ではなく、お客様も畑に来て一緒に種を蒔いたり収穫したり、農家主催のワークショップに参加したり、生産者と消費者の距離を縮めて農業について一緒に考えていくのがCSAです。

やっぱりCSAは、近くに消費者がたくさんいる都市部の方がやりやすいと思うんです。消費者も、スーパーに売っている遠くの産地の野菜だけじゃなくて、近所の農家が愛情を込めて作った野菜を食べてみたいという気持ちもあると思うんですよ。僕は、お客様とのつながりをもっと深めたいと思っていたのと、会話することでお客様のニーズを掴むことが出来るんじゃないかと思って始めました。

繁昌農園の繁昌知洋さん

良かった点としては、やはり消費者とつながれる点ですね。あとは、会員向けに、収穫体験や食育体験を提供しているうちに、違う販路にもお客様が生まれたり。口コミで人脈が広がっていくのは、大きなメリットです。

農業の大変さや環境に対するお客様の意識も変わるんじゃないかなと思っていて、みんなで地球を良くしていこうという意識を高めるのにも役立っている気がします。それはとても良かったなと思える点です。

苦労した点は、僕自身は感じていないのですが、一農家だけでやるのはすごく大変みたいです。企画運営から集客、会員とのやり取りをやりながら、もちろん本業の野菜栽培も全部やらないといけませんからね。僕は、近くの三つの農家と連携してCSAをやっているので、事務作業の負担は軽減されていますね。それぞれ作っている野菜が違っているので、会員の皆さんに色んな野菜を届けることが出来るのも強みです。

消費者からすると、農家ともっと話をしたいけど、敷居が高くて声をかけづらいというのがあるみたいですね。でも、僕らのCSAチームは何でも聞いてくださいという感じでオープンにやっているので、すごく親しみやすいという点で評価されていますね。

いつどんな種類の野菜を作っているか、食べたことのない野菜でも味の特徴だとか、料理方法について直接お伝え出来ますので、スーパーで買う野菜よりも愛情を込めて料理してくださいます。食卓でも、夫婦や親子で話す機会が増えて会話が弾むので、家庭環境が良くなったという方もいらっしゃいました

新規就農者のほうが先入観が無い分、受け入れやすいと思うので、その方たちに対してアドバイスしていきたいですね。最近は、周りでも食に対する意識の高い方が増えてきているので、そういう人たちと一緒になって広めていければいいですね。農業の大切さについて理解を深めるには、CSAは絶対必要だと思います。

若い人に、「実は農業ってめちゃめちゃ楽しいんですよ」と伝えたいです。種を撒いて収穫するまでの成長していくプロセスは面白いし、学びにつながるので是非、興味を持って欲しいですね。それは、スーパーで収穫されたものだけを見ていてもわからないです。

いきなり農家にならなくていいので、収穫体験に参加してみるとか、ベランダで野菜を育てたりすると興味が湧くと思うんですよ。それで興味を持ってくれれば、CSAに参加したり、将来的に農業をやってみたいと思うようになったりするかもしれません。

自分が出来ることとしては、若い人向けに農業体験や自然体験の機会を作って、農業を盛り上げていくことかなと。先ほどもお話ししましたが、青梅は都心に近いのに自然が豊かな場所なので、イベントなどでアピールして農業に興味をもってもらって、新規就農者に移住して欲しいと思います。

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