CKD患者における野菜果物の摂取と予後の関係
日本透析医学会の調査によると、2021年末時点で、日本の透析患者数は約35万人にのぼります。
透析は、非常に体力を使う治療のため、体への負担が大きくなります。
約4~5時間の通院が週3回は必要など、時間的な拘束も大きいのです。さらに、費用も非常に高額です。現時点では、公的助成制度があるため個人負担は月2万円以内ですが、保険財政を圧迫する要因にもなっています。
透析は、腎機能が重度に低下し、老廃物を体外に排出できない状態になると必要となる治療です。腎機能が低下している状態をCKD(chronic kidney disease)、慢性腎臓病と呼びます。CKDは、腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%未満(※)に低下する、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が3ヵ月以上続く状態を指します。※GFRが60mℓ/分/1.73㎡未満
CKDを進行させないための食事療法には、カリウムの摂取を制限するという項目があります。そのためCKD患者は、カリウム摂取量を減らすために野菜や果物の摂取を制限するケースもあります。
今回は、日本人CKD患者の野菜・果物の摂取頻度と死亡率について調査した文献を紹介します。
進行したCKDの患者は、食事療法において野菜や果物を大量に摂取することは推奨されていません。しかし、一般の健康な集団では、野菜や果物の摂取量が少ないほど死亡率が高くなります。
過去に野菜科学研究会で公開した参考記事をご覧ください。
今回、CKD患者を含む前向きコホート研究(※)では、野菜と果物の摂取頻度が死亡率と関連があるかどうか、およびCKDがこの関連に影響を与えるかを調査しました。
※コホート研究:調べたい要因を、持つ群と持たない群に分けて、疾患や死亡リスク等との関連性を明らかにする研究手法。大勢の人を長期間観察する研究手法の一つで、対象者に特定の働きかけをしない。
この試験の参加者は、2008 年 6 月から 2016 年 12 月までの間に新潟県佐渡市の総合病院の外来を受診した患者 2,006 人でした。そのうち男性が55%、平均年齢は 69 歳です。
全体の約45%にあたる902 人 が透析未導入のCKD患者であり、7%の131 人は血液透析患者でした。
野菜と果物の摂取頻度は、自己申告のアンケートにより「全く又は滅多に食べない」「時々食べる」「毎日食べる」の三分類で調査しました。
野菜と果物の摂取頻度は、CKD ステージが悪化するにつれて減少しました。
・「毎日食べる」:非CKD患者51%に対し、血液透析患者の28%
・「全く又は滅多に食べない」:非CKD患者11%に対し、血液透析患者の31%
という結果になりました。また、追跡期間中(中央値5.7年)に、561 人の参加者が死亡しました。
コホート全体における野菜と果物の摂取頻度と全死亡率との関連について調べたところ、「毎日食べる」グループに対するハザード比(※)は、調整後「時々食べる」グループと「全く又は滅多に食べない」グループでそれぞれ 1.25 (95% CI、1.04-1.52)と 1.60 (95% CI、1.23-2.08)でした。
※ハザード比:相対的な危険度のこと。上の場合「全く又は滅多に食べない」グループは「毎日食べる」グループと比較して、死亡リスクが60%高くなることを意味する。
また、CKDの状態によって層別化したところ、非CKD、透析未導入CKD、血液透析などの状態に関係なく、野菜と果物の摂取頻度と全死亡率との間に、有意ではないものの同様の用量依存関係が観察されました。
以上の結果から、CKD の状態に関係なく、野菜や果物の摂取頻度が低いことは、全死亡リスクが高くなることと関連があると考えられます。
Minako Wakasugi et al.,Vegetable and fruit intake frequency and mortality in patients with and without CKD: A hospital-based cohort study, Journal of Renal Nutrition, Available online 13 February 2023; https://doi.org/10.1053/j.jrn.2023.01.011