ヤサイビト_ダブルエム中村さま、田中農園田中さま

論理とデータからシステムを作り、安定した農業経営に貢献したい!ダブルエム中村哲也さんに聞いた、持続可能な農業経営のこと

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「日本の施設園芸は、もっと良く出来るはずだ」

大学時代から農業について学んでいた、株式会社ダブルエム 代表取締役 中村 哲也さんは、恩師が立ち上げた植物工場の環境制御システムを開発・販売するダブルエムに飛び込みました。

一貫して変わらないのは、エネルギー問題、食糧問題などを解決する「持続可能な農業」に貢献したいという思い。

持続可能な農業、儲かる農業は実現できると信じ、経験則や暗黙知だけではない理論と科学、データを基にしたシステムで、合理的な施設園芸の実現に邁進する中村さん。

高齢化、少子化、気候の変動など様々な課題を抱える農業に理論とデータの力で貢献する中村さんと、実際にダブルエムが開発したシステムを使用している田中農園の田中さんに色々伺ってきました!


中村 哲也(なかむら てつや)
株式会社ダブルエム 代表取締役

大手食品会社の情報システム部門、流通部門、商品管理部門、経営企画を経て、2014年よりダブルエム取締役就任。2023年9月より代表取締役社長。静岡大学客員准教授。

Office MARU代表を務め、中小企業診断士の資格を活かし、農業生産法人の商品開発支援などを行う。他にもNPO法人 AHA Gallery project代表理事を務め、若手美術作家の支援活動を行っている。

田中 真一(たなか しんいち)
東京都指導農業士、野菜ソムリエプロ

東京都あきる野市にて、田中農園を経営。ダブルエムのシステムを活用して、トマトを中心にハウス栽培を行っている。ガブっとかじりついて欲しいという思いから「ほおばるトマト」のネーミングで販売している。

ヤサイビト_中村さん田中さん

突き動かしたのは、「持続可能な農業」への思い

中村:農業の温室、特に植物工場と言われているものでは、様々な環境制御のためのコントローラーが必要になります。例えば、気象条件の変化に応じて窓を開けるとか、暖房を入れるというのを自動で制御するなどが必要なのですが、そのコントローラーを作っている会社がダブルエムです。「DM-ONE」という制御システムを主力に販売しているのですが、他にも大学や農業試験場などの研究機関から依頼を受けて、研究に対応できるようなコントローラーを作って欲しいという要望に応じたカスタマイズ製品などにも対応しています。 それと、農業関係のコンサルティングサービスというのも行っています。

中村:はい。主力商品は、完全に外部から閉鎖されてLEDなどを利用している人工光利用型の植物工場では無く、ビニールハウスのように太陽光を利用している太陽光利用型植物工場です。人工光利用型の施設の環境制御は、それほど難しくありません。しかし、太陽光利用型では、天候は常に変化するので、その時の状況に合わせた複雑な制御が必要になるんです。そこが我々の強みとなっています。

中村:確かに、静岡大学農学部で施設園芸を学んだ人がメンバーになっています。私は、大学院時代にメロンの研究をしていました。静岡はメロンの栽培が盛んで、ハウスで作ることが多いのですが、その時から施設園芸の中の環境制御はどうあるべきかということを研究していました。卒業後も、研究室の同窓会などが開かれたときに参加して恩師である前社長(狩野 敦氏、現技術顧問)とよく話をしていたのですが、施設園芸の知識や技術については、卒業後15年位経過しても、それほど大きく変わることがなかったんです。

「日本の施設園芸は、もっと良く出来るはずだ」という思いが高まっていきました。その後、大学院の後輩が会社を辞め、恩師の仕事を手伝い始めました。頻度は高まったものの、私は数か月に1回の助言に留まっていました。ただ、法人化するなら中途半端な助言では、生まれたての会社は上手くいかないとも考えていました。恩師が代表となり会社を設立するタイミングで、思い切ってそれまで勤めていた会社を辞め、この世界に飛び込みました

中村:そうですね。ちょっと大きな話になるのですが、学生の頃から地球が抱えている様々な問題の解決策について考えていました。特に私が解決すべきと思っていたのは、人口増加がもたらすエネルギー不足と食料不足についてです。政治的な問題だとか、宗教の問題とかが絡んでくると自分の力ではどうにもならないですが、純粋に食料問題については自分にも貢献が可能だと、ずっと携わりたいと思っていたんです。それで、大学院卒業後は大手の食品会社に勤めました。ブランドが確立していて素晴らしい会社でしたが、農業に関与できる事業を0から立ち上げるのも面白いと思ったんです。やはり根底にあるのは、食糧問題などを解決する「持続可能な農業」への貢献です。

中村:いやあ、ものすごく反対されました。

中村:メンバーそれぞれが違う業界の会社出身者ですからね。会社のルールを全部自分たちで作っていく必要があって、最初のうちはちょっと苦労しました。あとは、資金面の苦労です。最初は、スタートアップ企業向けの補助金などの制度があるんです。設立して10年にもなると、そういった補助金も段々無くなっていく仕組みなんです。更に、コロナ禍で農家さんの所に行って営業が出来ない時期が2、3年続いたので、今が1番厳しいですね。経営者として売上を作って、従業員に給料を払っていかないといけないので、大きなプレッシャーではあります。

あとは、技術系の企業なので、当時の社長の提案で教科書を読みなおすゼミのようなものを週に1回やることになり、毎回、レポートを作成して提出していました。この年になって毎週レポートを書くとは思ってなかったので大変でした。余談ですが、その時に単位を意識するという点にはすごく鍛えられました。日本人は、会話の中で単位を気にせず話す人が多いのですが、実は相手は違う単位で話しているかもしれないんですよ。例えば、単価の話にしても、米農家さんは30㎏(1俵)当たりで話すし、トマト農家さんは1kg当たりで話すので、取り違えると大変なことになります。

嬉しかったこととしては、やはり農家さんに「このシステムを導入して本当に良かった」と言っていただいた時ですね。弊社のシステムを導入してもらっても、収量、品質や採算性などトータルで本当に良かったかどうかの結果が出てくるのは、大体1年くらいかかります。それまで心配になることもありますが、1年後に良い結果が出て作業も楽になったよ、という言葉を聞けるのが1番の喜びです。

持続可能な農業のために、「DM-ONE」が持つ可能性

ヤサイビト_中村哲也

中村:このシステムで自動制御にすると、一般的なハウス栽培と比べて生産量が大きく増えます。作物によっても異なりますが、トマトだと生産量が3倍位に増えますし、市場価格が高い時期に収穫することで、それ以上に利益を増やせたという農家さんもいらっしゃいます。

野菜の生育のために、栽培者が管理しないといけないことは大きく3つあります。1つ目は、葉を取ったり、芽を摘んだりと野菜に直接手を加えること。2つ目は、水や養分を供給すること。3つ目は、野菜の生育環境を整えることです。これを全部完璧に管理するのは、本当に大変なんですよ。365日休むことが出来なくなります。我々のDM-ONEは、3つ目の野菜の生育環境を自動的に整えてくれます。3つの苦労の内の1つが減るだけで、農家さんは随分と荷が下りると思います。農家さんに、計画的に自由な時間が出来るというのもメリットの一つです。

中村:施設園芸やスマート農業の定義がきちんと決まっていないので、難しいですね。ごく一部の機能をシステム化しているだけでもカウントされることもありますしね。でも、そういうのを含めたとしても本当に一握りの農家さんだけでしょうね。初期投資が普通のハウスよりは高くなってしまうので。

中村:確かに日本の農業は課題が多いですね。明るくしたいですし、明るくなっていくべきだと思って携わっています。仰るように高齢化、少子化の影響で農業労働力は減少しています。従事している人が減っているだけでなく、高齢化で皆さん体力が衰えているので、昔と同じような作業はできなくなっています。ただ、私としては持続可能な農業ができると思っているし、儲かる農業というのも実現可能だと思っています。

日本では、一旦、農業をやめる場合でも、税金が安いので農地として維持している人が多いんです。いずれ子供が農業を引き継ぐかもしれないし、農地を転用して宅地や商業・工業施設を建てたりできるかもしれない。開発が進んで土地が値上がりしたら莫大な利益を得るかもしれないと夢見る人もいます。農家一人が保有する農地が狭いということもありますが、投資して農地をもっと有効活用していこうとする人は少ないんですね。そういったことによって有休農地や耕作放棄地がすごく増えています。

戦後の農地改革で、それまで小作人だった人が自分の土地を持つことが出来るようになり、モチベーションが上がり、生産量は確かに上がりました。その時代はそれで良かったのですが、今となっては農地が細分化された状態になって、大規模化する事が出来ないんです。大規模化しないで農業を本職として食べていくのは、すごく難しいんです。それなので、農地を集約化しやすく出来るような法制度や農業税制を変えていく必要があると思います。

日本ではまだ殆ど認知されていませんが、米国などではCSA(※)と言って生産者と消費者が連携し、前払いによって農産物購入の契約を結んで相互に支え合う仕組みがあります。こういう考え方が普及すれば、農家さんの経営が安定し、消費者も精神的に豊かになって農業の持続可能性が高まるかもしれませんね。

中村:ダブルエム(Mが2つ)という社名には、「Meaningful Motivation(意義あることをする、それが我々の喜びです)」という思いを込めています。我々は施設園芸について論理的・合理的に考え、自分たちが納得できる商品を開発し、提供していきたいと考えています。

経験則や暗黙知だけではなくて、理論と科学、データを基に検証しながらシステムを作って、合理的な施設園芸を実現していく。そうすることで、天候にも左右されにくい安定した農業経営に貢献し、正しく努力する人が成功する魅力ある農業を実現したいと考えています。

我々のミッションとして「We make your greenhouse greener」というメッセージをHPにも記載しています。「温室内の緑を増やそう」という意味で、植物の光合成量を増大させようという想いがあります。合理的な施設園芸を通じて日本の施設園芸を発展させたいと考えています。

(※)CSA  Community Supported Agricultureの略。生産者と消費者が連携し、流通業者などを介さずに直接契約で野菜を定期購入する仕組みのこと。1980年代後半ごろにアメリカで始まりました。日本語では「地域支援型農業」と訳されます。

労力削減、品質向上、植物に最適な環境を自動的に作り出すのが「DM-ONE」

続けて、実際にダブルエムのシステムを導入している、田中農園の田中真一さんにお話を伺いました!

田中農園田中さま

田中:2018年8月から開始しました。それ以前は、都市型農業で少量多品目の生産をしていました。2014年頃から、東京都農林総合研究センター(東京都農総研)では、東京の狭い農地でも収益を上げる方法として、施設栽培の研究が実施されていました。2018年には、東京型次世代アグリシステム(※)現地実証事業としてハウス設置工事が実施され、トマトの施設栽培を挑戦したいとの想いが実現できました。
(※)現在は、東京フューチャーアグリシステム(略して、TFAS)として商標登録されています。

田中:導入してみて、5年が経ちます。色々な技術を集めて作られた施設で、その中でも温室内の環境を制御するものがダブルエムさんの「DM-ONE」というシステムです。

DM-ONEは、栽培している品目にとって最適な環境を自動で制御してくれるシステムです。ハウスの窓やカーテンなどの開け閉め、ミスト(冷房)や暖房などトマトの栽培に最適な環境を制御してくれるので、僕はそういったことを気にせずに、農作業に集中できるのは大きなメリットです。

夏場は高温対策、冬場は低温対策といった、夜間に冷暖房を使用する場合も、自動で制御できるというのは作業負担も減るので便利ですね。特に、急な天気の変化などがあった時、他の作業をしていて対応できない時や、外出しているときなど自分では気づかないことがありますが、センサーがリアルタイムでデータを取得しているので、常時、計算して制御してくれます。労力削減だけでなく、作物の品質向上にも寄与しています。これから農業を始める人だったら、プロ農家のノウハウが1年目から手に入りますよ(笑)。

野菜というのは、本当にちょっとした天候の変化で萎れちゃうんですよ。そうなると樹勢が元に戻るまで、2ヵ月ほど収量が減ってしまいます。それを最小限に止めてくれるのは、経営的にも大きく貢献していますね。ハウスから離れたところでも、今どういう状態になっているのかが、スマホのアプリでも確認できるのは助かっています。

今の農業は、いかにデータに基づいて行うかは大事です。データが無くても何となく上手くいくこともありますが、理由が分かるのと分からないのでは、対策や再現性が全然違いますからね。

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