ヤサイビト 松村 佳代 野菜ソムリエ上級プロ

構想から10年!絶対にあきらめなかった野菜への思い、「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」を作った松村さんに聞いてみた

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2022年、埼玉県深谷市にオープンした「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」は、アウトレットモール「ふかや花園プレミアム・アウトレット」に隣接しており、野菜の魅力を体験できる複合型施設です。

ここでは、今日もたくさんの野菜が育てられ、訪れた人たちは野菜に触れ、食べ、体験からの学びを楽しんでいます。


深谷市の公募事業としてオープンしたこの施設は、一人のヤサイビトの熱い想いから生まれたもの。
初めて構想した時から10年、ずっとあきらめずに行動し続けた松村さんに、野菜への思い、そして、このファームへの思いを伺いました!

松村 佳代 野菜ソムリエ上級プロ

松村 佳代(まつむら かよ)
野菜ソムリエ上級プロ

東京農業大学卒。キユーピーグループの株式会社旬菜デリ入社。グループ内の公募制度「Try! Kewpie(現 Kewpie Startup Program)」に「野菜をおいしく食べて楽しく学べる複合型施設」構想をエントリーし、採択される。
キユーピー株式会社 経営推進本部経営企画部、同社 深谷テラスプロジェクトを経て、「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」開業に伴い、運営会社である深谷ベジタブルコミュニケーション株式会社所属となる。

「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」は、野菜に触れて、食べて、学べる場所!

松村:「ヤサイな仲間たちファーム」の施設のコンセプトは、「野菜にときめく、好きになる、笑顔を育むファーム」です。”野菜は体に良いから食べようね”・ ”栄養があるから食べようね”という理屈ではなく、ここに来たらなんか純粋に楽しい場所だよね、ワクワクするね、という雰囲気を感じてもらいながら、自然に野菜を食べてみようと思える。実際にいっぱい食べて、新しいことを学んでもらえる場所を目指しています。

それを実現するために、体験農園や学びのための教室があり、新鮮な野菜を美味しく食べていただくレストランがあり、美味しい野菜をお家に帰っても食べられるようマルシェがある、という複合型施設になっています。

深谷テラス レストランのサラダバー

松村:ありがとうございます。実は、2022年5月のオープン当初からサラダバーをやりたいと思っていたのですが、コロナの影響もあり延期していました。この夏から、ようやくスタートすることが出来ました。 やっぱり、サラダバーがあると「野菜をたくさん食べられるな」と思っていただけますね。

サラダバーは、ここの農園や近隣の農家さんで収穫された採れたての旬野菜を使っており、季節によっても日によっても内容が変わるんですよ。旬の時期には、収穫体験で採りきれない位の野菜ができるので、できるだけロスにならないようにいい状態のものをレストランで使っています。レストランで食べて美味しかった野菜を、マルシェで買って帰るお客さまもたくさんいらっしゃいます。

松村:意外かもしれませんが、冬の方が色々な野菜が収穫出来ておススメです。ここの農園も、今たくさんの種類の野菜が出来ていて、お客様にも「まさにいまが1番いい季節です」とお伝えしているんです。逆に、夏の間は種類が少なくて、ずっとナスとオクラとピーマンばっかりみたいになっちゃいます(笑)。深谷は夏場とっても暑いので、人も野菜も大変です。深谷には特産品の深谷ネギやブロッコリーもあり、これからが美味しい季節です。

深谷テラス マルシェ

フレンチシェフ監修!嚥下食にも対応する、野菜の魅力を引き出すレストラン

松村:オープンして1年半ぐらい経ちますが、延べ約14万人の方に来ていただいています。土日は家族連れが多いですし、平日には年配の方がご夫婦やお友達同士で来られることが多いですね。

松村:近隣の施設の月1のお出かけイベントで、お食事に来ていただいています。実は、レストランでは今、嚥下が困難な方の食事にも対応(※)しているんです。

松村:いいえ、レストランで手作りしています。同じメニューを食べていただけるように通常メニューをすべてペースト状にして提供しています。一人ずつ状態が異なりますので、ご要望を聞いてその方の状態に合わせて提供しています。

今日はクリスマス会なので、ケーキも提供しているんですよ。野菜も、種類ごとにペーストにしたり、卵も黄身と白身を別々にペーストにすることで、見栄え良く綺麗に盛り付けられます。

(※)嚥下対応食は要予約、事前にご相談ください

松村:そうですね。地産地消の先駆け的存在の「オトワレストラン」(※)の音羽和紀シェフにメニュー監修をしていただいています。

素材が本来持っている味を、最大限引き出すというところが一番の魅力だと思っています。シェフやスタッフの皆さんも同じ思いを大切にしてくれているので、素材に手をかけすぎず、シンプルなんだけど野菜の美味しさがよくわかるという料理になっていると思います。

先ほど食べていただいたサラダバーもそうですが、彩りをすごく意識しているので、見た目もカラフルでお子さんも楽しんでくれてます。「自宅では全然野菜を食べないけど、ファームではたくさん食べてくれる」と喜んでるお母さんも多くいらっしゃいます。

(※)栃木県にあるフレンチ「オトワレストラン」https://otowa-artisan.co.jp/

松村:そうなんです。この建物の屋根は曲線になっていて、すごくこだわっているところなんです。目を引くというのもありますが、天井がすごく高くて落ち着いた空間になっていますし、最近、ディナーコンサートなどの音楽イベントも開催していて、演奏者から「音の反響がすごくいい」と評判です。お客様だけでなく、演奏者も繰り返し参加してくださるといういい関係が出来ています。

深谷テラスのレストラン店内

構想から10年!”絶対にこの施設を作りたい”という思いに突き動かされて

松村:私は元々、サラダや総菜を作る会社の工場で働いていました。そこでは、毎日取り扱っていても、 従業員は野菜のことをそれほど知ってるわけではなかったんです。もっと野菜の魅力を皆で勉強したいし、そういう場所があったらいいなと思っていました。そのうち、社内だけじゃなくもっと多くの人に野菜の魅力を広められる場所があったらいいのではないかと思うようになりました。そのタイミングで、キユーピーグループの新規事業の社内公募制度が始まって「これだっ!やるしかない!」と思いました。それが2012年で、今から11年前ですね。

松村:そうなんです。オープンまでにちょうど10年かかったんですよ。社内でも「10年間、どうやってモチベーションを保ったんですか?」と、よく聞かれます(笑)。

松村:10年も時間がかかってしまったのは、場所の問題なんです。私は、体験農園と一緒にレストランやマルシェを作りたいとういうこだわりがありました。日本の場合、農地法上の問題で、本来は圃場(農園)とマルシェのような商業施設を一緒に設置することができないんです。そのため、「特区」のように自治体と一緒に取り組むという形でないと難しそうでした。私は、農業体験が出来なければ意味が無いと思っていて、マルシェとレストランだけという施設には絶対したくなくて粘り強く探していました。

さらに、本社のある関東近郊で始めようというのもあって、場所の選定だけであっという間に3、4年経ってしまいました。ある時、「一度、別の部署に異動して勉強してからまた戻って来てはどうか」という打診もあったんですが、そうしたらもう絶対に出来なくなると思って、断固拒否しました。

深谷テラスの松村さん

松村:そのうち、会社がある農業法人に出資することになり「そちらで農業や経営について勉強してきたらどうか?」という話になり、2年程兵庫県にある農業法人に行くことにしました。農業を学びつつ道の駅で働かせてもらい、生産と販売の現場を学ばせてもらいました。

そこでは、「日本三大ねぎ」と言われている兵庫県の「岩津ねぎ」というのも作っていたんですが、その時に深谷の話が来たんです。ねぎ繋がりで、何か縁のようなものを感じましたね。役員の方がファームの構想に賛同してくれていて、いろんな所でお話してくださっていたんです。お話を聞いた方の中に、深谷市の開発プロジェクトについてを教えてくれる人がいらっしゃって。「深谷テラス」は公募案件だったのですが、応募することになりました。

その間も、社内でファーム構想が忘れられないようにと食堂で野菜メニューを出したり、ファームの進捗状況についてポスターを作って掲示したり、お昼休みにセミナーを開催したり、結構大変でした。

松村:深谷市は、「深谷花園インター拠点整備プロジェクト」という大きなプロジェクトがベースにあって、アウトレットができることが決まっていました。そのアウトレットの横に農業と観光の施設を作ろうということで、公募をしていたんです。農地法の制限を受けないように深谷市が造成し、体験農園とマルシェとレストランという複合施設を作ることが出来ました。

こちらは公募だったので、地域貢献の内容を盛り込んだ提案書を作成する必要があり、外部の方の力も借りて苦労して作り上げました。採択された後も、造成に時間がかかったり、コロナが発生したり…。当初の予定より更に4年遅れて、2022年にようやく開業に漕ぎつけました。

深谷テラス

松村:一番の悩みは、もっともっとお客さまに来ていただきたい、ということ。今はまだ、公園やアウトレットに来たついでに寄るという感じになっていて、ファームが目的地になっていないと感じます。まだまだ認知が足りない部分があるし、我々としても魅力を発信してはいるのですが、伝えきれてない部分もあるので、手探りでやっているというところです。

あとは、改めて、自然を相手にする仕事は大変だなというのを痛感します。例えば去年、熱中症警戒アラートが出たらまる1日農園の収穫体験を中止にしていて、結局、17日間も中止にせざるを得なかったんです。夏休みということで、せっかく子供たちが来てくれたのに、がっかりさせてしまったことも多くて。今年はその反省を活かして、暑さ指数を図る装置を農園に導入して、その数値で判断することにしました。指数が基準を超えたら一時休止にして、基準を下回ったら再開するという、リアルタイムで判断を行いました。そのおかげで、暑い日でも、11時~15時は中止になる場合もありますが、朝一や夕方ならば体験が出来るようになったりしました。

でも、暑さには本当に悩まされますね。今年は、収穫体験用にとうもろこしを植えたんですが、夏の暑さで1000本位ダメになりました。雨で、せっかく植えた種が流されたこともあります。

嬉しかったことは、やはりお客様に来てもらって、「楽しかったね」「美味しかったね」とか、「子供が野菜を食べるようになった」などと直接言っていただけることですね。

体験を通して、野菜の楽しさを伝え続けたい

松村:発見という程ではないですが、この仕事をやっていると、野菜教室などで健康や栄養について語りたくなることがあります。ついつい、この野菜の栄養価はこうですとか、説明っぽくなりがちなんですね。理詰めで話しても響かず、結局食べてもらえないことがあるので、気を付けようと意識してます。

あとは、収穫体験だけでなく、収穫した野菜を加工する体験もすごくニーズが大きいことがわかりました。例えば、ピクルス作りや梅酒や梅干し作り、沢庵作り体験などがもすごく反響がいいですね。やっぱり説明だけじゃなく、お客様には体験の方が響くので、今後増やしていこうと思います。

深谷テラスの体験農園

松村:もっともっと多くのお客様を呼ぶことが、私たちの最重要課題かなと思っていますので、イベントなどもたくさんやっていきたいですね。早く20万人、30万人と来ていただけるようにしたいです。教室や収穫体験、イベントなどに年2万人以上参加していただくことを当面の目標として頑張りたいです。

松村:収穫体験は、もちろんいい方法です。収穫体験の時、私たちは意識して「採ったお野菜どうする?どうやって食べるの?」と必ず聞くようにしています。そうすると、どうやって食べるかを子供たちが自分で考えるんです。嫌いな野菜だと「食べない!」と言う子もいるんですけど、私たちは「色んな食べ方があるからね。ナスが嫌いでもこういう風に料理したら食べられるかな?」とお話をさせていただくようにしてます。お母さんにも、「グラタンにしたら食べられるかもしれないですよ」などとお声がけするようにしています。

今、キユーピーの食育プロジェクトで「ごちそう写まチャレンジ」(※)という取り組みを毎月、ファームでやっています。収穫体験で野菜を採って、それを使って料理体験ができる親子イベントです。初めて調理をするような子供たちが、自分で採った野菜を使って自分で料理することで、お母さんたちがびっくりするくらい野菜をよく食べるんです。自分で何かを成し遂げたという達成感や、成功体験が大事なんだと思います。

それと、大人が美味しそうに食べている姿を毎日見せるといいですよね。よく言われるのは、小さい子供は野菜のパリパリの食感が苦手な子が多いんです。それを無理やり食べさせていると野菜を嫌いになってしまうので、生野菜ではなく温野菜を食べさせるというのもいい工夫だと思います。

(※)#ごちそう写まチャレンジ体験イベント|深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム
https://vegepark-fukaya.jp/event/161

松村:そうですね、「野菜ってすごく楽しいよ」ということをたくさんお伝えしたいと思っているので、ぜひここに来て実感していただきたいです。

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