廃棄物から価値ある飼料へ:果物・野菜の皮を活用するサステナブルな畜産
環境にやさしい社会を目指す観点から、食品廃棄物を減らし、 未利用の資源を上手に再利用する取り組みが注目されています。
これまで廃棄物とされてきた野菜の皮や芯などの未利用部分には、実は食物繊維やビタミン、抗酸化物質など、栄養成分がたっぷり含まれているのです。
例えばキャベツは、可食部よりも、外側の葉や芯の部分の方がカルシウムやカリウムなどのミネラルが多く含まれていることが知られています。
こちらの記事では、果物や野菜の皮を動物の飼料として利用した場合に、栄養面と環境面の両方でどのような影響があるのかを詳しく調べた論文を紹介します。

野菜・果物の皮に含まれる栄養成分と飼料としての効果
果物や野菜の皮には、動物の成長と健康に欠かせない食物繊維、炭水化物、タンパク質、ビタミン、ミネラル、抗酸化物質などの栄養素が豊富に含まれます。さらに、柑橘の香り成分で、皮に含まれるリモネンなどの風味成分は、飼料の味と香りを高めて家畜の飼料摂取量や嗜好性の向上につながると指摘されています。
| 栄養成分 | 主な役割 | 多く含む野菜や果物の皮 |
| 炭水化物・食物繊維 | ・牛や羊といった反芻動物の消化を助ける ・血糖値のコントロール ・エネルギー源になる | じゃがいも、オレンジ、りんごなど |
| ビタミン・ミネラル | ・抗酸化作用 ・免疫機能の維持 ・骨の形成、筋肉機能のサポート | 柑橘類(ビタミンC)、にんじんやさつまいも(ビタミンE)、にんじんやりんご(カルシウム) |
| 抗酸化物質 | ・免疫機能の維持 | りんごや柑橘類(ポリフェノール)、にんじんやさつまいも(βカロテン) |
食品廃棄物削減と温室効果ガス低減効果
果物や野菜の“皮”を飼料として使うことは、持続可能な農業の実践に役立ちます。
具体的には次のような利点が考えられます。
- 廃棄物の削減と温室効果ガスの低減
皮を埋め立て処分すると有害な温室効果ガスが発生しますが、飼料として再利用すれば有機廃棄物の量を大幅に減らすことができます。 - 資源の節約
従来の穀物ベースの飼料生産は、大量の土地や水、エネルギーを必要とします。皮を代替飼料として用いることで、これらの資源投入を抑えて環境負荷を軽減できます。 - 土壌の健康増進
栄養豊富な皮を摂取した家畜の糞は、有機物を多く含み天然肥料として土壌の作物を育てる力を改善します。その結果、化学肥料の使用量が減り、土壌・水質汚染の低減にもつながります。 - 持続可能性
皮を資料に組み込むことで、廃棄物が別の資源になる流れを作れます。さらに、その糞を肥料として畑に戻すことで、養分の循環が加速します。 - 経済的メリット
皮は、低コストまたは無料で入手できる場合が多く、高価な飼料原料への依存を減らして農家の経済的な持続可能性を高めます。

飼料利用による家畜の成長率・乳質向上への効果
野菜や果物の“皮”を飼料に加えることで、家畜のパフォーマンスが向上する可能性が示されています。
- 牽引力
牽引力とは、荷物を運んだり畑を耕したりする作業能力のことです。皮に多い炭水化物が作業に必要なエネルギーを供給し、食物繊維による腸内環境の改善が疲労感の低減に役立つと期待されています。 - 食肉生産
柑橘類、にんじん、かぼちゃの皮などを飼料に加えることで、成長率や飼料効率が向上して、より質の高い赤身筋肉の発達をサポートします。 - 乳生産
柑橘類、りんご、にんじんの皮を加えることで、オメガ3脂肪酸やビタミンといった乳中の有益成分が増えて、乳量と乳質が向上する可能性があります。

野菜皮の飼料化における課題と今後の展開
果物・野菜の皮の飼料利用は、人・動物・環境の健康が相互に関連する「ワンヘルス」を実現する取り組みといえます。
人にとっては、栄養価の高い肉や乳の摂取を通じて健康面のメリットが期待され、動物にとっては成長率の向上や免疫機能の維持に役立つと考えられます。
また環境面では、廃棄物と排出の削減、資源の節約、土壌の質の改善を通じて、回復力の高い農業システムの構築につながります。
さまざまな可能性が感じられる一方で、次のような課題もあります。
- 季節や地域による栄養組成の変動
- 栄養素の吸収を妨げる「抗栄養因子」の存在
- 加工・保存の難しさ
これらの課題を乗り越えるために、今後は最適な飼料配合の検討や加工技術の根本的な見直し、そして農家への普及啓発が重要となるでしょう。

【引用文献】
Muhammad Wasim Haider et al., Environmental and Nutritional Value of Fruit and Vegetable Peels as Animal Feed: A Comprehensive Review, Animal Research and One Health, 2025, 3(2), 149-164
https://doi.org/10.1002/aro2.70002