健康的で持続可能な食生活の基礎
「人間の健康」と「地球の健康」の両方にメリットをもたらす、「共便益(Co-benefits)」という考え方をご存じでしょうか?
実は、世界各国の食事ガイドラインに取り入れられつつあり、論文にもまとめられています。
野菜科学研究会がご紹介する論文では、健康的で持続可能な食事の基礎として、「一日当たり少なくとも400g(5ポーション)」の果物・野菜を摂取することをあらためて強調しています。
野菜の摂取が、人間の栄養面だけではなく、地球環境の持続可能性にとっても不可欠であることを示しています。
背景と目的
現代の食生活は、生活習慣病の増加といった「人間の健康」と、気候変動や資源枯渇などの「地球の健康」の両方に大きな影響を与えています。
この二つは、両立が難しいと考えられがちでした。ところが、近年の研究では、どちらも一緒に実現できる「共便益(Co-benefits)」という考え方が主流となっています。
また、すでに世界100カ国以上の国家的な食事ガイドラインに「持続可能性」の視点が取り入れられ始めているそうです。

しかし、人々は「食事パターン全体」ではなく、「個々の食品」を選んで食べています。
そのため、抽象的なガイドラインを具体的な食品選びにどのように落とし込むかという点で、混乱が生まれています。
この論文は、混乱を解消するために、「健康で持続可能な食事とは何か」を定義し、科学的根拠に基づいた「基礎(Fundamentals)」とは何かを明確にすることを目的としています。
健康と持続可能性のための「3つの基礎原則」
論文では、人間の生理的ニーズとしての健康と、フードシステムの生態系プロセスの両方を守るためには、お互いに関連する「3つの基礎原則」が必要であると結論付けています。
- 多様性(Variety)
人間の健康:野菜・果物・全粒穀物など、多様な食品を摂取することで、必須栄養素や抗酸化作用を持つ生理活性化合物を確実に摂取できます。
地球環境の健康:多様な消費は多様な作物生産につながり、生物多様性を守ることを助けます。 - バランス(Balance)
人間の健康:野菜や全粒穀物を増やし、動物性食品を減らし、食品グループ間の比率を適切に保つことで、生活習慣病リスクを減らせます。
地球の健康:植物ベースの食品を増やし、動物ベースの食品を減らすことで、温室効果ガス排出量や資源使用量を抑制します。 - 節度(Moderation)
人間の健康:栄養ニーズを超えた、過剰なエネルギー摂取を避けて、適正体重を維持します。
地球の健康:必要以上の食料消費を抑えることが、生産・廃棄による有限な環境資源使用の無駄を防ぎます。 
「基礎原則」の具体的な実践方法
考察では、上記「3つの基礎原則」を、実際の食品選択に応用するための具体策が述べられています。
- 食品ガイドラインへの応用
フードピラミッドや食事プレートといった各国の食事ガイドでは、「多様性・バランス・節度」という3つのポイントを、視覚的にわかりやすく示すことが大切です。
例えば、フードピラミッドの土台となる一番大きな部分には、野菜や果物、精白していない穀物である全粒穀物をたくさん置くことで、食べる量のバランスを整えます。
そしてその中には、いろいろな種類の食材を入れて、多様性をしっかりと確保することが大切です。 - 植物性食品の加工レベルを考えることの重要性
研究では、「動物性食品を減らし植物性食品を増やせばよい」というような考え方には、栄養が足りなくなるという重大なリスクがあることがわかってきました。
「植物性食品」といっても、いろいろな種類があります。
例えば未加工の野菜や豆類のような「伝統的な植物性食品」と、大豆ミートや豆乳のような新しく開発された「新しい植物性食品(novel plant-based foods)」、さらに栄養価の低い「超加工食品(Ultra-processed foods, UPFs)」である場合 では、加工レベルにより栄養が大きく異なります。
また、温室効果ガス削減のために動物性食品の摂取を減らす食事モデルをシミュレーションした先行研究では、動物性食品を減らしすぎると、大切な栄養素が足りなくなる恐れがあるとされています。
特に、ビタミンB12、カルシウム、鉄、亜鉛などの不足が、成人女性において指摘されています。
そのため、食品の「加工レベル」を間違いがないように識別し、それぞれの食品が持つ健康と環境への「利点」と「リスク」を、慎重に判断することの重要性が示されています。 - そのほかの重要な要素
これまでのことから考えると、「超加工食品(UPFs)」や「アルコール」は栄養価が低く、健康のために必要な食品ではありません。そのため、「制限すべき食品」として区別することが大切です。
また、砂糖がたくさん入っているような飲料は避けるなど、安全な飲み物を選ぶことや、料理ではサラダ油やオリーブオイルといった不飽和植物油を適度に使うことが望ましいとされています。
そして、食事に気を配るだけでなく、体をしっかりと動かすことも、健康を保ち、地球に優しい持続可能な生活を送る上で大切な習慣です。 

健康と地球のための食生活とは
「健康で持続可能な食事」の基本的な考え方は、人間が長い歴史の中で、どのように食べ物に適応し体が変化してきたかという「進化的プロセス」と、地球上の生き物と環境がどのように関わり合って成り立っているかという「生態学的プロセス」に基づいています。
しかし、「超加工食品(UPFs)」など、フードシステムの変化は、人間の生理機能と地球の生態系が適応できる速度をはるかに超えてしまっています。
こうした問題に向き合うためには、「多様性・バランス・節度」という3つの基本がとても大切だと論文は示しており、人間の健康と地球の健康に「共便益」をもたらす、実行しやすい指針になるでしょう。
「植物性だから良い」と決めつけるのではなく、その食品がどのように加工されているのか「加工レベル」をしっかりと見て、栄養が足りなくならないように、慎重に選ぶことが不可欠です。
<引用論文>
Lawrence M. Fundamentals of a healthy and sustainable diet. Nutr J. 2024;23(1):150. Published 2024 Nov 30. doi:10.1186/s12937-024-01049-6