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「食事の健康度」を測る新指標(ANPS-Meal)

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健康への意識が高まる中で、私たちが食べる物や食事の栄養をどのように評価するかは、社会全体の健康を考える上で重要な課題です。

この課題を解決するため、海外では食べ物や食事の栄養的な価値を客観的に評価する「栄養プロファイリングシステム(NPS)」という方法が開発・導入されています。

しかし、海外の栄養プロファイリングシステムは、加工食品や飲料など一つひとつの食品を評価するために設計されています。そのため、主食、主菜、副菜など、さまざまな料理を組み合わせてできている日本の豊かな「食事」全体の栄養バランスを適切に評価するには限界があるのです。

この課題に対し、日本食に特化した「食事用栄養プロファイリングシステム(ANPS-Meal)」が新たに開発されました。

研究の概要:ANPS-Mealとは

ANPS-Mealは、食事全体の栄養バランスを客観的に評価するためのシステムです。

このシステムは、料理に使われている食品や調味料に含まれる14種類の栄養素と、野菜や果物の量を、ある計算方法に基づいて点数化します。

評価は、摂取が推奨される栄養素と、過剰摂取が良くないとされる栄養素のバランスを、総合的に判断するものです。

モデルの科学的な妥当性の検証

新しい評価システムが信頼できるものかを確かめるために、研究チームは「収束的妥当性」の検証を行いました。ANPS-Mealが、既存の評価方法と似たような結果が得られるかを確認する作業です。

比較対象として、食事全体のバランスを評価する「mHEI-2015」と、栄養の密度を評価する「NRF9.3」という、二つの国際的な指標が用いられました。
分析の結果、ANPS-Mealで計算された点数は、これらの二つの指標の点数と強い正の相関を示しました。正の相関とは、一方の数値が増えると、もう一方の数値も増える関係を指します。

これは、ANPS-Mealが「食事のバランス」と「栄養密度」の両面から食事の質を的確に評価できる、信頼性の高いシステムであることを示します。

本研究の限界と今後の課題

一方で、この研究にはいくつかの限界も示されています。

第一に、ANPS-Mealは日本の食文化を前提に設計されているため、世界共通の評価基準としては使いにくいという点です。世界保健機関(WHO)も、国ごとの栄養事情や食文化に配慮した基準づくりの重要性を強調しています。

ANPS-Mealも、日本の食環境という文脈の中で、その有用性を考えるべきでしょう。

結論と社会的な意義

上記のような限界があるとはいえ、この研究の意義は「食事」という複雑なものを、栄養バランスの観点から客観的に評価できる、日本で初めての信頼できるシステムを構築したことにあります。

今後は、食品メーカーが栄養バランスに配慮した商品を開発する際の指針として、また消費者がより健康的な食事を選ぶための参考として、ANPS-Mealの活用が広がっていくことが期待されます。

ANPS-Mealの研究は、単独で行われているわけではありません。

近年、日本の食文化に基づいた栄養プロファイリングシステムの開発が活発になっており、例えば、一つひとつの「料理」の栄養バランスを評価する「NPM-DJ」(Nutrients 2024, 16(17), 3012)といった研究も発表されています。

料理」を評価するNPM-DJと、「食事全体」を評価するANPS-Meal。

これらの研究が互いに補完し合うことで、日本の食生活はこれまで以上に健康的になっていくと期待できそうです。

こうした異なる特徴をもつ栄養プロファイリングシステムが、共通して野菜の摂取を重要視している点も、改めて注目すべきポイントといえるでしょう。

参考文献
Jinzu H, Arima K, Kobayashi H, et al. Development of the Ajinomoto Group Nutrient Profiling System for Japanese Meals. Front Nutr. 2025;12:1568181. Published 2025 May 21. doi:10.3389/fnut.2025.1568181

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