学術情報

酷暑・干ばつに対する野菜栽培戦略

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世界の野菜生産は、高温障害と干ばつにより非常に大きな影響を受けています。
特に、開発途上国では生産性の低下により、深刻な食糧安全保障危機に直面しています。

野菜科学研究会が紹介する文献では、高温障害に対する植物自身の様々なホルモンや抗酸化システムによる防御メカニズムを解説しています。
また、干ばつによる被害を克服するために期待されている戦略についても紹介します。

スマートな水管理と伝統的な水管理

最近では、IoTや機械学習などを活用し、コンピューターやセンサーで最適なタイミングで水をあげられる「スマート灌漑(かんがい)システム」が導入されています。このシステムにより、水を無駄にせず、必要な時に必要なだけ野菜に水をあげることができます。

しかし、こうしたシステムはコストが大きくかかる、すべての場所で使えないなどの課題も抱えています。
そんな時に役立つのが、少しずつ水をあげられる点滴灌漑や、雨水をためて使う伝統的雨水利用技術です。
新しい技術と昔ながらの知恵をうまく組み合わせることで、農業における水効率を、更に高めることができます。

バイオテクノロジーの応用

近年、干ばつ対策として「ゲノム編集」や「育種」により、干ばつに強い野菜を作る取り組みも進められています。

例えば、「CRISPR/Cas9」という技術を使うと、野菜の遺伝子を改変し、より強くて元気な品種を作ることができるのです。ただし、こうした技術にも限界があり、他の手法との組み合わせや、環境への影響を十分に調べながら活用する必要があります。

さらに、これらの技術を広く利用していくためには、規制の見直しや、消費者の理解を得ることも欠かせません。

干ばつ耐性のための接ぎ木とゲノム支援育種

ゲノムを直接いじらなくても、干ばつに強い野菜を育てる方法があります。

その一つが「接ぎ木」と呼ばれる技術です。強い根をもつ植物に、別の野菜の茎や葉など、上の部分をくっつけることで全体を元気にする方法です。

接ぎ木は効果的ではあるものの、熟練した技術が求められるなどの課題も多く、他の戦略と組み合わせながら活用することが重要です。また、「一塩基多型」などのDNAのわずかな違いを利用すると、特別な遺伝子をもった野菜を見つけやすくなります。これを「MAS(マーカー支援選抜)」といいます。

この方法は、新しい品種を作るのに役立つ手法であり、近年の進歩により、干ばつへに強い作物の選抜精度は、大きく向上しています。

さまざまなバイオスティミュラントの使用

野菜の干ばつ対策として、「バイオスティミュラント」の利用が注目されています。
バイオスティミュラントとは、植物や土壌により良い生理状態をもたらす物質や微生物のことです。

例えば、腐植物質や海藻抽出物、有用な微生物などを使うと、土壌環境が改良され、野菜の根が元気になります。その結果、栄養の吸収効率がが促進され、干ばつへの耐性をも向上します。
さらに、ナノ粒子や外因性ホルモンなどの新しい素材も、今後の応用に期待が寄せられています。

気候変動による干ばつは、野菜の生産にとって大きな脅威です。
植物も、生理的に環境に適応しようとしますが、その能力には限界があります。

これからの農業は、スマート農業、バイオスティミュラント、ゲノム編集など、さまざまな技術を組み合わせた総合的な対策が求められます。

こうした取り組みが、未来の干ばつに強い農業を支え、世界の食料安全保障にも大きく貢献することが期待されています。

Jongwon Park et al.,Growing vegetables in a warming world – a review of crop response to drought stress, and strategies to mitigate adverse effects in vegetable production, Frontiers in Plant Science, Volume 16 – 2025 , https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1561100

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