
オートクレーブされた野菜で培養肉を形成
「培養肉」という言葉を聞いたことはありますか?
動物の細胞を人工的に培養し、ごく小さな細胞から作り出される本物の肉のことです。
サイズは数十μm〜数百μm程度と非常に小さく、次世代のたんぱく質源として昆虫食とともに注目されています。
多くの食品企業で研究されていますが、製造コストの高さや、食用素材のみを用いて肉を再現する難しさが課題となっています。
野菜科学研究会が紹介するこの研究では、野菜の細胞を足場として活用することで、従来の方法よりも安価で安全に培養肉を生産できる可能性が示されています。

研究結果
1. 筋肉の細胞の培養に適した野菜の選別
筋肉細胞の培養に適した野菜を選ぶため、きゅうり・なす・だいこんなどの野菜に筋肉の細胞を播種し、適切に成長するかを観察しました。
その結果、椎茸・れんこん・セイヨウアサツキ(ネギの仲間のハーブ)の三種類で筋肉が線維状に伸長し、筋細胞が成長していることが確認されました。
さらに調査を進めたところ、「オートクレーブ」という加圧加熱処理を施すことで、野菜の細胞に筋肉の細胞が定着しやすくなることが明らかになっています。

2. 脂肪の細胞の培養に適した野菜の選別
筋肉(たんぱく質)に加えて、脂肪も肉の食感や味わいを左右する重要な要素です。筋肉と同様に、脂肪の細胞も野菜の上で培養できるかを調査しました。
その結果、ヘチマを用いた培養で、脂肪細胞が適切に成長することがわかりました。
3. 培養肉の食味評価
筋細胞と脂肪細胞を組み合わせ、野菜を足場に培養した「ミートチップス」という食肉を作成しました。
焼いたミートチップスを、えんどう豆由来の植物性ミートと比較する食味評価を実施したところ、植物性ミートよりも本物の肉に近い味わいが得られました。
まとめ
本研究では、野菜を用いることで低コストかつ品質の高い培養肉の作成に成功しました。
今後、研究が進めば、肉のたんぱく質に加え、野菜由来のビタミンやミネラルを兼ね備えた新たな食品が開発されるかもしれません。
日本では、まだ培養肉の販売事例はまだありませんが、シンガポールではナゲットに一部混ぜるなどの形で、すでに流通しています。
いつか培養肉が普及した時、私たちの身近な野菜がその技術を支えているかもしれません。
研究と生活を繋ぐ、夢のある話ですね。
【引用文献】
Ye Liu et al., Growing meat on autoclaved vegetables with biomimetic stiffness and micro-patterns, nature communications, 2025, 16(1):161.
https://doi.org/10.1038/s41467-024-55048-6