
高齢の糖尿病患者の「ベジタブルファースト」な食習慣と生活機能維持の関連
「ベジタブルファースト」という言葉を聞いたことはありますか?
食事の最初に野菜を食べ、後半に白飯などの炭水化物を多く含む食べ物を食べるという方法です。この方法により、食後の血糖値の上昇が緩やかになることが分かっています。
特に、血糖値をコントロールする役目を持つインスリンの働きが弱くなっている糖尿病患者さんにとって、有効な食習慣とされています。
こちらの記事で紹介する横断研究では、ベジタブルファーストの習慣が、糖尿病を持つ高齢者の生活機能の維持にも関係していることが明らかになりました。

調査概要
◼︎対象者
日本赤十字社 伊勢赤十字病院に通う、60歳以上の糖尿病患者346名
◼︎食事調査
食事の順番に関する質問を行い、以下の4つのグループに分類しました。
1.野菜を最初に食べる
2.たんぱく質を最初に食べる
3.炭水化物を最初に食べる
4.食事の順序に決まりはない
◼︎生活機能の調査
老研式活動能力指標(TMIG-IC)を用い、日常生活動作、知的能力、社会活動に関するアンケートを行い、評価しました。例えば、以下のような質問が含まれます。
・日用品の買い物ができますか
・請求書の支払いができますか
・友達の家を訪ねることができますか
調査結果
全体で「野菜を最初に食べる」グループの割合が最も高く、他のグループに比べると男性の割合が低い傾向にありました。
重回帰分析によって食事順序とTMIG-ICのテスト結果の相関を調べたところ、「野菜を最初に食べる」グループは「食事の順序に決まりはない」群に比べて、TMIG-ICスコアが有意に高く、より高い生活機能を維持していることが分かりました。
一方で、その他のグループでは有意な差は見られませんでした。
また、「野菜を最初に食べる」食習慣と生活機能の相関は男性にのみ見られ、女性では確認できませんでした。一般的に、女性は健康的な食習慣を持つ傾向があるため、「野菜を最初に食べる」ことによる影響が小さかった可能性が考えられます。
研究の意義と今後の課題
この結果から、ベジタブルファーストの習慣は血糖値のコントロールだけでなく、高齢糖尿病患者さんの生活の質の維持向上にも貢献している可能性が示されました。特別な食品を摂る必要はなく、食べる順番を意識するだけで効果が期待できるため、日常の食生活に取り入れやすい方法です。
また、単に野菜をたくさん食べる・先に食べるだけでなく、栄養バランスの取れた食事をすることが重要です。たんぱく質や炭水化物も適切に摂取し、全体的な健康を意識した食生活を送ることが推奨されています。
ただし、この研究には以下の限界があります。
対象者が少ないこと、糖尿病を持つ高齢者に限られていることなどが挙げられます。
他の年代や健康状態の異なる人々に同じ効果が見られるのか、どのようなメカニズムでベジタブルファーストが生活機能に影響を与えているのかなど、さらなる研究が必要です。
【引用文献】
Satoshi Ida et al., The “vegetables first” dietary habit correlates with higher-level functional capacity in older adults with diabetes. BMC Nutrition 2024,10(1), 126.
https://doi.org/10.1186/s40795-024-00928-9
老研式活動能力指標,東京都健康長寿医療センター