離乳期の食経験は、大脳皮質味覚領域に大きな変化を与える
野菜も含めた食べ物を、乳幼児期において、いつ、どのようなものから食べ始めるべきか。食育の観点からも、とても興味深い問題だと考えています。
こちらの記事では、離乳期の食経験によって、味覚の感受性が変化する可能性について味覚の研究をご紹介します。
食事を摂る際に、甘い・苦いなどの味覚情報や、硬い・柔らかいなどの食感に関する情報は、口の中で受け取った後、脳内の味覚の受容・認知において非常に重要な脳部位である味覚野や体性感覚野に伝わることで、味や食感として認識されます。
これらの食事に関する情報を処理する脳の領域は、一部明らかにされていますが、食への情報が脳にどのような影響を与えるのかはほとんど解析されていませんでした。
一方で、味覚以外の感覚では、幼少期の刺激を受けることで脳の関連領域が発達し、特別な能力を獲得する可能性が示唆されています。
視覚の場合、目が開かれた直後の光の入力によって大脳皮質視覚野の神経伝達経路が大きく変化することが知られています。また、聴覚では、絶対音感や語学能力など、私たちの生活に直接関わる能力の獲得には、幼少期の感覚刺激が必要とされています。
本研究では、生後の食環境が劇的に変化する離乳期に着目し、離乳期マウスの食経験が脳に及ぼす効果について、検証を行いました。
まず、離乳前後の時期において、脳内の味覚の受容・認知において非常に重要な脳部位である、味覚野や体性感覚野で発現量が大きく変動しているタンパク質を探索しました。
その結果、Synaptosomal associated protein (SNAP)25(注2)という神経伝達物質の放出に関与するタンパク質が、離乳後に顕著に蓄積されていることを見出した。
固形餌を与えたマウスと、母乳のみで育てたマウスでの脳内SNAP25量を比較したところ、固形餌を与えたマウスにおいて、SNAP25タンパク質が顕著に蓄積していることが明らかになりました。
単純な味の刺激として、甘味料や辛味物質を与えた場合でも味覚野・体性感覚野においてSNAP25が蓄積し、その蓄積部位は味の種類によってわずかに異なることも示されました。
以上の結果から、離乳期の食経験により、大脳皮質味覚領域において神経伝達に重要なタンパク質の量が大きく変化することが明らかとなりました。
この結果は、離乳期の食経験によって、味覚領域の神経回路が発達し、味覚の感受性が変化する可能性をも、同時に示唆しています。
乳幼児期における食経験が、どのようにして大脳の味覚関連領域に影響を及ぼし、それが大人になってからの食行動や味覚感度に影響するかどうかといった知見は、乳幼児期において、いつ、どのようなものを食べ始めるべきかという現実的な問題とも直結しています
引用文献
Kawakami S et al., Accumulation of SNAP25 in mouse gustatory and somatosensory cortices in response to food and chemical stimulation. Neuroscience. 2012, 30:218:326-34. doi: 10.1016/j.neuroscience.2012.05.045.