中国での持続可能な野菜生産について
中国は世界一の野菜大国であり、多くの野菜の生産量が世界一です。
当、野菜科学研究会HPの野菜図鑑には、生産量が上位の国を掲載しています。野菜図鑑中の30種類の野菜のうち、18種類で生産量が世界一であり、信頼できる正確な統計が見当たらない野菜についても多くが一番であると考えられます。
中国の野菜生産は、世界の食糧安全保障を左右する重大事です。そんな世界の大産地である中国で発表された、持続可能な野菜生産に関する論文について紹介します。
過去30年間で、中国の野菜生産量は飛躍的に増加しました。一人当たりの供給量に基づくと、1995 年の「592g/日」から 2018年には「1262g/日」へと約2.1倍増加しました。
これは、耕地面積の増大と栽培技術の進化等により、単位面積当たりの収量の増加が原因です。この期間に急速な経済発展がなされ、小規模農家の貧困対策として野菜生産を奨励する政策が取られてきた背景もあります。
しかし、野菜産業への多額の投資による耕地面積と供給量の増加は、深刻な資源の浪費と環境汚染をもたらしました。
実は、野菜供給量が増加したにもかかわらず、一人当たりの野菜摂取量は1995年の「313g/日」から、2018年には「263g/ 日」へと減少しました。所得の向上に伴い、肉類の摂取が増加したためと考えられます。
また、野菜のロスと廃棄の比率が、1995年の47%から2018年には79%に増加と、大きく高まったことを意味しています。(中国の野菜輸出量は、野菜総生産のわずか1.3%であり、殆どが国内で利用されています)。環境汚染に関しては、野菜栽培による温室効果ガス排出量の増加に加え、非点源汚染※、地下水汚染の増加、さらに、土壌品質の劣化をもたらすことが実証されています。
※個別の汚染源から起きる汚染とは異なり、拡散した複数の汚染源が原因で起きる汚染のこと。
このように野菜耕作地の拡大は、農業生態系の環境を脅かし続けています。従って、中国は持続可能な野菜供給のために、資源を節約し、環境に優しいシステムへの移行を急ぐ必要があります。
著者らの試算では、中国の一人当たりの野菜供給量と野菜摂取量は今後大きく変わらないと仮定したモデル(2030年~2050年の間、供給量が1219g/日、摂取量が265 g/日とした場合)において、(品種改良や栽培技術の発展等で)野菜の収量が、2030 年と 2050 年にそれぞれ 11.8% と 28.3% 増加すると見込まれるので、野菜の耕地面積は2018年と比較して、2030年と2050年にそれぞれ13.6%と24.7%減少させることができます。
また、野菜のロスと廃棄率が、2018年の79% から70%、60%、50% に減少できた場合、野菜の供給量も減らすことが可能です。これが達成できれば、2030年の耕地面積はそれぞれ、37.3%、53.0%、62.4%削減、2050年の耕地面積は、それぞれ 45.3%、59.0%、67.2%削減しても摂取量を賄うことが出来ると試算しています。
以上のように、野菜の損失と廃棄を管理する戦略を政策に取り入れることで、耕作可能な土地の節約、ひいては持続可能な野菜生産につながることを示しています。
Ying Tang et al.,China Requires a Sustainable Transition of Vegetable Supply from Area-Dependent to Yield-Dependent and Decreased Vegetable Loss and Waste, Int. J. Environ. Res. Public Health 2023, 20(2), 1223; https://doi.org/10.3390/ijerph20021223