学術情報

新たな植物用照明「単色赤色レーザーダイオード」の可能性

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私たちの食生活を支えている農業は、世界的な問題に直面しています。

例えば、世界中で人口が増えてより多くの食料が必要とされていること、都市に人が集まることで農業をする人が足りなくなっていること、さらに、気候変動の影響で作物がうまく育たなくなる(不作になる)ことなどです。

そんな問題を解決する切り札として、天候に左右されずに屋内で植物を計画的に育てる「植物工場」が注目されています。そして、この植物工場で最も大切な要素の一つが、植物の成長に欠かせない「光」です。

野菜科学研究会が紹介するこちらの論文では、植物工場で使われる新しい光の技術として、「レーザーダイオード(LD)」という光源に注目した研究を紹介します。

レーザーダイオード(LD)とは? 

これまで植物工場の光源はLEDが主流でしたが、LDにはそれを超えるかもしれない、次のような特徴があります。

  • 単一波長の光(特定の色の光だけを強力に出せる)

    LDは、ごく限られた波長(光の色)だけをピンポイントで作り出すことができます。植物が光合成を行うのに最も効率が良い「色」の光だけを狙って当てられるため、無駄がありません。

  • 高いエネルギー効率

    電気を光に変える効率が非常に良いため、少ない電力で済む、つまり環境にやさしいと言えます。

  • コンパクトで軽量

    小さくて軽いため、設置場所の自由度が高く、限られたスペースでも効率的に使うことができます。

実験方法 

この研究では、タバコの葉、シロイヌナズナ、レタスを使って実験が行われました。

  • 光合成速度の測定

    植物をチャンバーと呼ばれる密閉された箱に入れ、中の気体の濃度を測りました。植物は光合成で二酸化炭素を吸って酸素を出すため、その量の変化を調べることで、光合成がどれくらい活発に行われているかが分かります。

  • 炭水化物蓄積量の測定

    LEDまたはLDの光を8時間当てた植物に含まれるデンプン(炭水化物の一種)の量を、酵素法という特殊な薬品を使った方法で調べました。

  • 光のエネルギーを無駄なく使えているかのチェック

    非光化学的消光(NPQ)という値を計算しました。これは、植物が使いきれないほど強い光を浴びたときに、自分を守るために余った光エネルギーを熱として捨てる仕組みのことです。このNPQの値が低いほど、光のエネルギーを効率よく光合成に使えていることを意味します。

実験結果

実験①LDの光は光合成をスピードアップさせた

タバコの葉に、さまざまな色のLEDやLDの光を当てて、光合成の能力を比べました。
その結果、光合成が特に活発になる特定の波長(赤色光)で比べると、LDの方がLEDよりも光合成の速度が19.1%も速く、葉に蓄えられたデンプンの量も18%多くなりました。

これは、LDの光を浴びた方が、よりたくさんの炭水化物を作り出せたことを意味します。

実験②LDで育てた植物は、見た目も収穫量も大きく向上

次に、3種類の植物をLDとLEDの光で12日間育て、光合成や成長にどんな違いが出るかを詳しく調べました。

まず、ある一定以上の強さの光を当てると、タバコとシロイヌナズナでは、LDで育てた方が光の無駄遣いを示すNPQの値がはっきりと低くなりました。これは、LDの光をより効率的にエネルギーとして利用できている可能性を示しています。

さらに、LDで育った作物の見た目や収穫量には、LEDで育ったものと比べて、次のような変化が見られました。

  • 葉の緑色がより鮮やかになった。
  • 全体的に大きく成長し、重さは最大1.75倍、葉の面積は最大2.28倍になった。
  • 葉は大きくなったものの、少し薄くなった(葉の面積あたりの重量が0.68~0.84倍に)。
  • クロロシス(栄養不足などで葉が黄色くなる現象)や、植物がストレスを感じると作るアントシアニンという紫色の色素がたまる現象(色素沈着)が減った。

まとめ

これらの結果から、レーザーダイオード(LD)は、光合成を活発にし、作物の収穫量を増やすという点で、植物工場の新しい光源として非常に優れている可能性が示されました。

植物工場は、電気代などのコストが高いことが課題で、まだ私たちの身の回りでたくさん見かけるわけではありません。しかし、いつでも天候に関係なく、品質のそろった作物を安定して作れるという大きな魅力があります。

進化を続ける植物工場技術が、LDのような新しい光の技術を取り入れることで、未来の食料問題を解決してくれるかもしれません。
今後の発展に期待しましょう!

引用文献

Lie Li, Ryusei Sugita, Kampei Yamaguchi, Hiroyuki Togawa, Ichiro Terashima, Wataru Yamor,i,  High-precision lighting for plants: monochromatic red laser diodes outperform LEDs in photosynthesis and plant growth, Frontiers in Plant Science, 2025,  20;16:1589279.

https://doi.org/10.3389/fpls.2025.1589279

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