
畑を耕さなくても野菜が育つ!? 自然の力を活かした農業「不耕起栽培」
「農地で作物を育てる」と聞くと、どのような栽培の流れを思い浮かべますか?
まずは土地を耕して、種や苗を植えるイメージはありませんか?
そのイメージをくつがえし、土地を耕すことなく作物を育てる耕作方法があるのです!
これを「不耕起(ふこうき)栽培」といいます。
野菜科学研究会のこちらの記事では、不耕起栽培とは何か、どのようなメリットやデメリットがあるのかについて取り上げます。
そもそもなぜ土地を耕すのか
土を耕すことで、土の中に空気や水が入りやすくなります。これにより、土壌の保水性や通気性がよくなり、雑草が生えにくくなったり、微生物が有機物を分解しやすくなったりするなどの効果が期待できます。
一方で、耕す行為そのものや化学肥料の使用により、土の中に住むミミズや微生物などの生き物のバランスが崩れたり、土の構造が壊れたりすることがあるのです。
さらに、有機物が早く分解されすぎて、土の栄養が減ってしまうおそれもあります。
不耕起栽培とは?
不耕起栽培とは、「播種(はしゅ)」や「耕耘(こううん)」を行わない栽培方法のことです。
播種とは、作物を植える前に土を掘り起こすことで、耕耘とは、かき混ぜたりしない栽培方法のことです。「残渣(ざんさ)」という前に育てていた作物に残った茎や葉を地表に残したまま、新たな作物を栽培することができます。
土壌本来が持つ力やバランスを活かして自然の力を活用することで、持続的に作物を育てられることが特徴です。

不耕起栽培のメリット
不耕起栽培のメリットには、以下のようなものが考えられます。
1. 土壌・環境にとってのメリット
土の構造が安定する:時間をかけて自然に土の粒が整うため、通気性や保水性がよくなります。
土の中の生態系が守られる:土の中の微生物や小さな虫が活発に働くことで、病害虫を減らしたり、栄養を循環させたりする力が高まります。
温室効果ガスが減る:耕すことで出る二酸化炭素などのガスが少なくなり、地球環境への負担が軽くなります。
2. 栽培者にとってのメリット
労働時間やコストの削減:長期の不耕起栽培により耕す手間が省けるため、労力を抑えることができます。時間がたてば肥料もあまり使わずに済むので、コスト削減につながります。
3. 消費者にとってのメリット
安心・安全な農産物への期待:化学肥料の使用量が少ない作物は、消費者の安心感につながります。
栄養があり、おいしい作物に:健全な土壌で育った作物は、栄養価が高く、本来の風味を豊かに持つ可能性があります。
不耕起栽培のデメリット
自然の力に頼る一方で、次のようなデメリットもあります。
雑草が生えやすい:耕さないので、土の表面に雑草の種が残ります。そのため、雑草が生えやすくなります。
病気のリスク:残渣という前の作物の残りに病原菌が残っていると、新しい作物にも病気が移りやすくなります。
土の改善に時間がかかる:養分が土の中に均等に行きわたらないことがあり、最初は根がうまく伸びないなど、作物が育ちにくいこともあります。
不耕起栽培が注目される理由
不耕起栽培は、発展途上国では「耕す手間を省く」「お金がかからない」などの理由から世界中で注目されています。アメリカのような農業大国では、長年の化学肥料による土地の劣化を改善する方法として、導入の検討が進められるなど関心が高まっているそうです。
日本においても、環境に配慮した農業が求められる今、不耕起栽培は「地元で作って地元で消費する地産地消」の流れを支えるだけでなく、これから農業を始めたいと考えている人にとっても、ハードルが少し下がる方法になるかもしれません。
【引用文献】
B.D. Soane, No-till in northern, western and south-western Europe: A review of problems and opportunities for crop production and the environment, Soil and Tillage Research, 2012, 118:66-87