毎年一年生!奥深く、魅力的なしいたけ栽培 吉村しいたけ農園 吉村さん
お鍋が美味しい季節になると、スーパーの店頭に並ぶしいたけを手に取る回数が増えます。
年間を通じて気軽に手に入るしいたけですが、その栽培方法には「菌床栽培」と「原木栽培」の二種類あるのをご存知ですか?
私たちにとって身近な存在ではあるものの、意外と知らないしいたけにまつわるあれこれ。
神奈川県相模原市で、しいたけの原木栽培にこだわり、日々しいたけに向き合っている吉村しいたけ農園の吉村さんに聞いてみました!
吉村 孝幸/吉村しいたけ農園
https://www.ssz.or.jp/meika-meisan/so/yoshimura/yoshimura.html
原木栽培にこだわる一番の理由は、美味しいしいたけをお届けするため!
ーー今日は、しいたけについて色々教えてください!まず、しいたけの栽培には「菌床栽培」と「原木栽培」があると聞きました。吉村しいたけ農園さんでは、原木栽培にこだわっていらっしゃるそうですね。菌床栽培が主流な中で、原木栽培にこだわる理由は何でしょうか?
吉村:
一番の理由は、美味しいから。
30年前にしいたけ栽培を始めた時は、まだ菌床栽培の栽培技術が確立していなかったんです。原木で栽培を始めて、当初、5年後にはコントロールしやすい菌床にしようと思っていたんです。でも、菌床栽培と比較したら原木栽培の方が圧倒的に美味しいんです。なぜかというと、菌床は乾燥しやすいんです。だから、水をどんどんまかないと菌が育たない。そうすると「水きのこ」と言って、水分が多いきのこになって味が落ちる。結局、原木の方がいいやと思って続けてきました。そのうち菌床栽培が普及してきましたが、お客さまも原木の方が美味しいと言って買ってくださるので、もう変えられなくなりました。それに、菌床栽培だと、大手さんと価格競争になってしまうんです。同じ土俵では戦えないです。
ーーなるほど。農園では、どのくらいのしいたけを栽培しているんですか?
吉村:
原木を3,000本栽培していて、年間3t位収穫しています。原木1本あたり、約1kgのしいたけが採れます。
ーー3,000本!しいたけ以外にも何か出荷されていますか?どんなところに出荷されているかも気になります。
吉村:
水曜と土曜の午後のみですが、農園近くの直売所で販売していて、そのほかにも農協やヨークマート、生協、八百屋などの直売コーナーにも出荷しています。
年末年始には贈答用のしいたけや、しいたけのほだ木も販売しています。ほだ木というのは、きのこの原木栽培のために一定の長さに切断された木のことです。この時期はもう終わっていますが、春から初秋ごろにかけては、きくらげも生産しています。
ーー色々やられているのですね!しいたけの品種は、どの位あるのですか?
吉村:
品種登録されているものが無数にあります。10年くらい前に調べた時で、150種くらい。種菌メーカーのカタログに登録申請中というのもあったから、200位はありそうです。
ただ、同じ品種でも栽培の環境によって味や見た目ががらりと変わってしまうことがあります。うちでは一品種しか扱っていないのですが、「品種を変えた?」と聞かれたことがありました。同じような環境で育てていても、水っぽくなったり乾いたり、大きくて丸まったり、小さく平べったくなったりすることがあります。
ーーしいたけの原木に使われる木は、種類が決まっているのでしょうか?
吉村:
きのこを作る原木には、クヌギやコナラなどがあります。相模原は乾燥する地域なので、コナラを使っています。「なんでこんな所で椎茸を作るんだ」とよく言われます(笑)。
農業は毎年一年生!変化する条件に経験を活かしつつ挑む
ーーしいたけの育て方、収穫までの流れについて教えてください。
吉村:
うちの農園では、今は植菌済の原木を買っています。震災前までは福島県の木を主に使用していましたが、震災の影響で福島の木が使えなくなりました。長野、山梨、静岡辺りの木を使っていますが、需要量に対して供給量が少なく、価格の高騰化のため個人で木を集めるのが難しい状況です。
植菌の方法は、大まかに三種類あります。
一つ目は、「駒菌」といって駒と呼ばれる15mm位の木片に培養した菌を、ドリルで穴を開けて木に打ち込む方法。二つ目は「オガ菌」といって、おがくずに培養した菌を入れる方法。そして三つ目は、「形成菌」といっておがくずで培養した菌を駒状に形を固めて入れる方法です。
うちの場合は、二つ目の「オガ菌」という方法で菌を植えています。菌糸の量があるから、菌の周りが早いんです。「駒菌」だと一年半くらいかかるので、春に打って翌年の秋からやっと収穫できます。おがくずだと、1月・2月に打ったものが9月下旬から10月に収穫できるんです。
しいたけ栽培の簡単な流れを説明します。
春、桜が咲くころまで、木に菌を打ったら「ほだ寄せ」といって、菌が完全に定着するまで一ヵ月程度、ビニールで包んで保湿させます。
初夏から夏にかけて、ビニールを外して木の中の水分を抜きます。木の表面が乾くと中の水が抜けないので、水かけをしながら抜きます。木の中の水分を抜くと、抜けたところに同時に菌糸が追いかけて出てくるような感じになるので、木の中で菌糸を成長させます。
8月から9月頃になると、7、8割の菌が回った状態になり、湿度や移動といった刺激を与えることで芽が出ます。水槽で水に漬けるのですが、加えて、枠に乗せる時にゴトンゴトンと物理的な刺激を加えるんです。そして、9月から10月くらいに収穫します。
ーーしいたけの芽が出てから収穫できるようになるまでには、どれくらいの期間がかかるのですか?
吉村:
季節によりますが、水に漬けてから一週間で芽が出て、それから5日位で収穫できます。
いいしいたけを採ろうとすると、今よりもっと温度が下がった方がいいですね。ただし、1月頃だと20日位かかります。
今の時期(編集部注:取材は11月)は、特に出る数のコントロールが難しいんです。乗せ換えてすぐに水の刺激を与えますが、与えすぎると1つの穴から3つ4つと芽が出過ぎてしまいます。そうすると、1個1個が小さくなってしまうんです。栽培を始めた頃は、1本あたり1.2kg位採っていましたが、今は量より質を求めているので1kg弱に抑えています。
どのくらい置いたり水に漬けるかは経験値ですが、気候も毎年変わるから、農業は毎年一年生という感じです。
ーー収穫を終えた木は、どうなるのでしょうか?
吉村:
一年位で新しい木と入れ替えます。収穫した後は、40日くらい休養させます。子実体(しじつたい=きのこの傘とひだの部分のこと)になる芽はもう作られているから、休養させて刺激を与えて、きのこを出すということを何回か繰り返します。それを4回位やると、一年経ちます。山に伏せておくと、もっと長期間使えますけどね。露地栽培だと、春と秋だけに収穫して、五年位出てくるかな。
その後は燃料として利用されたり、業者でチップにしてもらい、なめこの菌床や家畜の敷料になります。
試行錯誤を繰り返しコントロールする、工夫が楽しい!しいたけ栽培の魅力
ーーそもそも、吉村さんはしいたけのどのようなところに魅力を感じていらっしゃるんですか?
吉村:
自分でコントロールできるところに魅力を感じていますね。
思い通りのしいたけができればすごく嬉しいし、失敗したら次はもっと上手に作ろうと色々工夫をするのが楽しいんです。
きのこが出過ぎちゃったとき、まずいなと思って水に漬ける時間を1/3にしてみたんですよ。そしたら今度はちょっと少ないかな?となって、またちょっと時間を増やして、というふうに試行錯誤を繰り返しています。
最良の条件を決めたつもりでも、突然、気温が上がったり雨が降ったりで上手くいかないこともあります。ハウス内で育てていても、外で雨が降ったか晴れたか風が吹いたかで、全然出来栄えが変わることがあります。例えば、雨が降ると湿度が高くなって、きのこが胞子を放出しようとして早めに傘が開いてしまうんです。
ーーしいたけ栽培で一番難しいのは、どのようなことでしょうか?
吉村:
難しいというか、今の最大の問題点は原木を集めることですね。技術的には、夏場の高温をどう乗り切るかが課題です。
ーー気候変動の影響で夏場の温度が高いですが、ここ最近、新たに対策していることはありますか?
吉村:
水をかけるしかないです。エアコンで温度を下げるのも試しましたが、電気代がかかり過ぎるんですよ。ただ、水をかけると温度は下がるけど、蒸れるリスクがある。蒸れると菌が死滅してしまうので、かける時間帯などを工夫します。温度の低い夜や朝早くにかけるのが理想的なのですが、夜の水やりはそのために起きないといけないから大変です。自動散水も試してみましたが、水がかからないところができてしまうので、なるべく手動で行っています。
夏場のしいたけ栽培は、とにかく水かけにつきます。毎日、水をかけて温度を下げてという作業の繰り返しになります。
ーー美味しいしいたけの見分け方、選び方を教えてください。
吉村:
しいたけの鮮度は、傘の内側のひだが白くて綺麗に立っているものと、鱗皮(りんぴ)という傘に付いている白い点々が立っているかどうかで見分けられます。ひだは、時間とともにへたったり黒ずんだりします。また、水分が多かったり、きのこに水がかかると鱗皮が褐色になって消えます。鱗皮が綺麗に見えるきのこは、適切な水分量で鮮度が高く美味しいんです。
ーーこれからは、よく見てみようと思います!しいたけの生産者ならではのおすすめのレシピはありますか?
吉村:
しいたけの味そのものを味わいたかったら、焼いて軽く塩をかけて食べるのがおすすめです。他には、傘にピザソースとベーコン、チーズを入れて焼くとか、しいたけは昆布との相性が良いので、佃煮にするのもおすすめです。バター醤油で味付けして、パスタソースにするのも美味しいですよ。
原木栽培のしいたけは、菌床栽培品に比べて水分量が少ないので、きのこの香りが強く感じられると思います。
ーーしいたけの軸を捨てる方もいますが、食べられるんですよね。
吉村:
しいたけの軸は美味しく食べられるし、軸の方が美味しいという人もいます。石づき以外は食べられますよ。
山で露地栽培している人から、猿は軸しか食べないと聞いたことがあります。傘が開いてないものは丸ごと食べるけど、開いたものは軸しか食べないらしいです。
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これまで、しいたけを購入する時には、大きさしか気にしたことがありませんでした。吉村さんのお話を伺ってからは、そのしいたけが菌床栽培か原木栽培か?を意識して確認するようになりました。
今のところ、スーパーで見かけるしいたけは菌床栽培品が主流で、燐皮が立っているしいたけにはまだ出会えていません。産直所などに行けたら、ぜひ購入したいと思っています。
相模原という、乾燥しやすいきのこ栽培に向かない地域で、試行錯誤しながらしいたけ栽培をされている吉村さん。
良いしいたけにするために、長年の経験を活かし、コントロールしながら大事に育てているお姿が素敵でした。
しいたけを食べる際には、軸まで美味しく食べようと思います!
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