ヤサイビト_神保 佳永シェフ

野菜嫌いだった少年は、”野菜の魔術師”と呼ばれるシェフになった!JINBO MINAMI AOYAMA・神保シェフ

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南青山にあるイタリアンレストラン「JINBO MINAMI AOYAMA」のオーナーシェフ、神保 佳永シェフは”野菜の魔術師”とも呼ばれています。

全国の生産者のもとを訪れ、旅してきた神保シェフは、多種多様な野菜を用いた料理の数々で多くのゲストを魅了。
野菜の魅力を芯まで知り尽くしたシェフと言えます。

しかし、実は元々は野菜嫌いだったという神保シェフ。そんな神保さんが野菜料理に込めた思いや秘密に迫ります!

JINBO MINAMI AOYAMA 代表 神保 佳永シェフ

JINBO MINAMI AOYAMA 代表 神保 佳永シェフ

1977年生まれ、茨城県出身
エコール辻東京卒業。都内フランス料理店に勤務後、20歳で渡欧しフランス、イタリアの約2年間、ミシュラン星付きレストランで修業を積む。帰国後、レストランやホテルのシェフを歴任し、2009年に「Restaurant I」を立ち上げ総料理長となる。2010年6月、東京都港区南青山にイタリアンレストラン「HATAKE AOYAMA」をオープン。野菜を多く使う料理が特徴で「野菜の魔術師」とも称される。2022年4月、東京都港区南青山自身の名前を冠したイノベーティブイタリアンレストラン「JINBO MINAMI AOYAMA」を開業。

食にまつわるプロの家系に生まれ、培われたもの

神保:
家業を継ぐということがきっかけで、料理の世界に入りました。私の家系は飲食家系で父方はパン屋さん、お菓子屋さんの職人で、父はイタリアンのシェフ。母方は漁師や、割烹の職人さんでした。

高校卒業後は、人に何かを教えるような仕事に興味があったので、大学に進学して教員免許を取ろうと考えていました。しかし、家業が飲食業だったこともあり、結果的には調理師専門学校に入り、飲食の道に進むことになりました。

神保:
両親が共働きだったので、小さい頃は祖父母の元で漁師だった祖父の手伝いをしていました。親戚の海女さんが網いっぱいにウニを採っているところを、小さいときから見ていました。ウニが大好きで、採れたてのウニをよく食べていたんですよね。振り返ってみると、当時は珍しかったケーキやパスタも日常的に食べられる環境だったので、味覚は自然に磨かれたようにも思います。

神保:
「JINBO MINAMI AOYAMA」は、私自身を楽しんでいただくためのレストランだと考えています。

具体的には、3つあります。1つ目は、自分の家庭環境や食経験から得られたものをお料理として表現することです。2つ目は、生産者との繋がりを体験し、楽しんでいただくこと。3つ目は、食で旅をしていただくことです。

これらのコンセプトを体現するために、2、3時間かけて一品一品丁寧に提供するコース料理を構成しています。それぞれの料理にテーマやストーリーがあり、お客様にゆっくりと味わっていただきながら、私自身の物語や食材の背景、生産者の思いを感じていただけるような仕掛けづくりをしています。

お客様からの一言がきっかけで、苦手だった野菜にとことん向き合う

神保:
野菜に向き合うきっかけは、常連のお客さんに言われた一言でした。 「神保さんの料理は美味しいし綺麗だけど、野菜がおいしくない。」ハッとさせられました。

実は、私自身小さいころから野菜が苦手で、自分の野菜嫌いなところが料理を作る時に出てしまっていたのです。実際、野菜を食べなくても 料理として成立するものがたくさんあります。お肉、お寿司、お刺身、フォアグラ、キャビア、トリュフ、そういうものが全てだと思っていました。

もっと野菜に向き合う必要があると感じ、野菜の産地に直接足を運び、生産者の方や現場から学びました。知って、学んで、食べて、体験して、体感して、こういう風に育つのか、こんな品種があるのか、どう調理したら美味しくなるか、自分でもどう調理したら食べられるかなどを学び、今に至ります。

野菜を売りにしているとは思っていないのですが、野菜料理が自分の特徴になったのは、しっかりと向き合った結果だと考えています。料理を作ると、自然に野菜料理が多くなってしまうのです。

調理方法も、単に切って出すのではなく、切ったお野菜をどのぐらい時間をかけて調理をしてお出しするかにまでこだわります。例えば、今日のお魚料理にあった蕪は、オーブンで 2時間ローストすることで蕪の旨味が出てくるのです。

神保:
野菜を突き詰めた結果、野菜によっては発酵させた方が美味しいかもしれないと考えました。私自身のオリジナルです。野菜は、火の入れ方・形の変化で味が変わります。もちろん、発酵トマトだけでは味は表現しきれない。何を掛け合わせるかも大切です。組み合わせる野菜によって、一気に美味しくなるのです。そこに、ノウハウやこれまでの自分の経験が生きています。

神保:
自分が修行していた当時は、野菜は脇役という位置づけでした。サラダであったり、細かく刻んで彩りとして入れたりすることが目的でした。

しかし、最近ではビーガンやベジタリアン対応が進み、野菜だけで完成させるレストランも増えています。野菜料理が見直され、脇役から主役になるということも出て来ています。

野菜に対する味の嗜好性も違います。例えば、ヨーロッパ野菜は在来種のものが多いので、味が濃く、硬くてえぐいので、ピューレしたりして加工する傾向があります。食感や形が残りすぎると、生だと勘違いされてしまいます。たとえて言うなら、パスタの硬さの好みの違いと似ているかもしれません。

レストランでの日々の活動が、自然とサステナブルへ

神保:
直接、生産者を訪れて取引を行うメリットは多くあります。まず、生産者の声を直接聞けることです。顔が見える関係を築けることで信頼感が生まれ、どういった場所で、どのような環境で育てられているのかを具体的に把握できます。また、産地の状況を理解することで、より良い品質の食材を確実に手に入れることができ、ダイレクトに新鮮で美味しいものが届くのも大きな魅力です。

一方デメリットとしては、生産者を訪ねるための移動時間がかかる点があります。交通費や滞在費など、コストの負担も少なくありません。しかし、これらの手間や費用以上に食材への理解が深まり、品質の高いものを提供できる価値が大きいと考えています。

神保:
フランスやイタリアでは、大規模な市場「メトロ(メトロキャッシュアンドキャリー)」が重要な役割を果たしています。これは、いわば巨大な卸売市場のような存在で、飲食店や小売業者が必要な食材を一括で仕入れることができる施設です。日本の市場と比較すると、より効率的で幅広い種類の食材が揃っている点が特徴的です。

さらに、メトロ以外にも八百屋のような業者がトラックで店舗まで直接運んでくれる仕組みもあります。日本では、こうした仕組みがあまり一般的ではありませんが、独自の方法で新鮮な食材を確保する工夫がなされています。

神保:最近は「サステナブル」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、以前は「食育」という言葉が注目されていました。「食育」に関しては、近隣の小学校と連携して、子どもたちと一緒に農家を訪れ、お米作りを体験する取り組みをしています。無農薬のお米作りに挑戦し、田植えから夏の雑草取り、秋の稲刈りから収穫後の天日干しや精米まで、一連の工程を子どもたちと一緒に進めます。そのお米を給食でいただくことで、食材がどのように作られて食卓に届くのかを学んでもらう機会を作ってきました。こうした取り組みは、食べ物を大切にする心を育むだけでなく、食材への感謝や持続可能な農業への理解を深めるものだと感じています。

「サステナブル」については、私たちが日々行っていること自体が非常に持続可能な取り組みだと考えています。特に、生産者の方々と直接やり取りをし、産地を訪れることが「サステナブル」だと思っています。

具体的には、生産者の方々と話し合い、どのような作物がいつ収穫されいつ手元に届くのかを把握し、それをどのように調理したのかフィードバックをすることで、農家さんのモチベーションを高めています。その結果、次の収穫や栽培にも良い影響を与えられる。これこそが持続可能性だと思います。

単にFAXで注文して届いた野菜を使うだけでは、持続可能性は担保できません。もし、必要な食材が入らなければ他の産地を探し回ることになり、結果としてその産地の存続が危ぶまれることもあります。また、担い手がいなくなれば、その農業自体が続かなくなる。そうした状況を避けるためにも、産地に足を運び、現場でないと見えなかったものを見つけ出すことが良い食材を安定的に仕入れるために大切だと考えています。

規格外の野菜も、こちらから「このサイズや形で十分です」とお願いすれば、廃棄されることなく活用できます。こういった取り組みもまた、持続可能性につながる重要な要素だと考えています。私自身、料理人になってから、そして産地を訪れるようになってから、こうした活動に自然と取り組むようになりました。

お店では、余った皮や切れ端も無駄にせず出汁に使ったり、まかないとして調理したりします。また、形を変えてチップスやペーストに加工し、お客様にお召し上がりいただくこともあります。食材を無駄なく使う工夫を重ねることが、私たちの考える「サステナブル」な取り組みです。

神保:
まず、料理を作る際には私自身がメニューの構想をまとめ、それを紙に書き出します。例えば、「このコースはこういうイメージで組み立て、酸味をこう表現したい」「最終的にはこういう形で仕上げたい」「この料理はこの温度感で提供したい」というように、細かい考えをすべて書き出します。

次に、その内容をスタッフに共有するための試作会を開き、考えた料理を実際に試作し、具現化したものを皆で試食します。その際に、提供方法やお皿の選び方、提供手順、プレゼンテーションの仕方について意見を出し合いながら詳細を詰めていきます。私の考えをスタッフ全員に「落とし込む」ことを徹底しています。

その後、スタッフそれぞれが知識をさらに深めるために調べたり検証したりしながら、プレゼンテーションの方法を練ります。また、私自身がお客様に料理や生産者について話す場面では、スタッフもその内容をしっかり聞いて学び、理解を深めています。このようなプロセスを通じて、生産者のこだわりや料理の背景を、スタッフ全員でお客様に伝えられるよう努めています。

野菜に向き合ってきた神保シェフに聞く、野菜の摂取量を増やすための取り組み 

神保:
「JINBO MINAMI AOYAMA」は、2022年4月にオープンして以来、私の料理やコンセプトをお客様に感じ取っていただけるよう、日々成長を続けています。産地から届く新鮮な食材や旬の味を通じて、お客様に楽しんでいただくことは、今後も変わらず大切にしていきたいと考えています。

昨年から今年にかけて、ありがたいことに香港にもレストランを出店することができ、現在は海外にも店舗があります。これを機に、今後もさらに展開を広げていければと思っています。海外への出店を含め、次のレストランの開店計画も進めており、スタッフやお店が共に成長する中で、新たなチャレンジをしていきたいと考えています。食材と共に、私たちスタッフも成長していく過程を大切にしながら、次のステップへ進んでいきたいと思っています。

神保:
「きっかけをどう作るか」が非常に重要だと感じています。

私自身、大人になってからお客様からのご指摘を受けて、野菜に対して本格的に向き合い始めたので、野菜の摂取を増やすのは簡単ではないと実感しています。

ご家庭でできることとしては、小さい頃から野菜に興味を持たせることが大切だと思います。例えばスーパーに行った時、お子さんと一緒に野菜売り場に行ってみる。野菜は色鮮やかで形も様々なので、「この野菜は何色だろう?」「これはどんな形かな?」といった会話を通して、自然に興味を引き出していくことが、野菜を食べるきっかけを作る第一歩だと思います。

メニューに関しては、やはり子どもたちが一番食べるものが一番良いと思います。例えば、いつもの焼きそばに定番の野菜だけでなく、いろんな種類の野菜を加えることで、普段食べない野菜にも興味を持って食べてくれるようになります。いつもと違うものを加えるだけで、食べる意欲が湧くと思います。

小学校で子どもたちと一緒に料理を作ることもありますが、その時は基本的に子どもたちが嫌いな野菜を使うことが多いです。特にトマト、ナス、ピーマンの三大嫌い野菜がありますが、それらを子どもたちと一緒に育てています。

苗から花が咲き、収穫した野菜を見ながら「自分たちが育てた野菜を使う」という経験を通して、野菜に対する関心が深まります。収穫した野菜を使って、ナポリタンにして一緒に食べると、子どもたちも自分で育てた野菜をおいしく食べるようになります。野菜を育てる過程を通じて、食べることへの意識も変わると思います。

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実際に、「JINBO MINAMI AOYAMA」でコースをいただいて来ましたので、ご紹介します!

Antipasto(前菜)
茶碗蒸しのような「ロワイアル」という一品。

渡り蟹とケールが使われています。
素材そのものも一緒に提供されることで、より一層楽しくお料理を堪能できます。

渡り蟹とケール
JINBO MINAMI AOYAMA・ロワイアル

Primo piatto(前菜と主菜の間に提供されるパスタなどのお料理)

発酵トマトや法蓮草、冬葱、白いんげんを使用しており、魚介類やお肉、さらにトリュフを組み合わせたパスタがとても上品に仕上げられていました。

JINBO MINAMI AOYAMA・Primo piatto
JINBO MINAMI AOYAMA・Primo piatto

じっくり調理された蕪は、魚料理の付け合わせとして彩り豊かに仕上げられていました。
無農薬のバジルで風味付けをされていました。薄くスライスしたビーツに、ムール貝やアスパラ、菜の花が添えられています。

ヴィッテロ・トンナート

ヴィッテロ・トンナート

北イタリアのピエモンテ州の仔牛を使ったお料理には、3種類のニンジンを塩麹で発酵させたサラダに、季節の色とりどりのお野菜やお花が添えられていました。

フランスやイタリアに渡ってミシュラン星付きレストランで修行され、全国の生産者たちの元を訪れてきた神保さんのお料理は、一皿ごとに特定の地域や阿蘇の土地での体験を味わえるものばかり。

まさに、「旅」に似た感覚でした。
全国を旅するように味わえるコースの仕立てです。

JINBO MINAMI AOYAMA・ヴィッテロ・トンナート
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