農と野菜のスター!「農園リゾート THE FARM」所属タレント・ヤサイちゃんに迫る
「漁業界には”さかなクン”というすごい広告塔がいるのに、農業界には野菜の魅力を伝えて広げてくれる人がいない。いないのなら、自分たちでプロデュースしよう」
そんな思いから企画がスタートしたという、「ヤサイちゃん」プロジェクト。
われわれ野菜科学研究会も、野菜の確かな研究成果をもとにした情報をお届けるすることで、みんなにたくさん野菜を食べてもらおう!と日夜活動しているため、「ヤサイちゃん」に興味津々です。
野菜の魅力を伝えるために選ばれた「ヤサイちゃん」とは、どんな人物なのか?
また、彼が所属する「農園リゾート THE FARM」の魅力とは。
東京農業大学を出て、レンコンを栽培する農業法人に勤めた経験を持ち、土壌マイスターでもある「ヤサイちゃん」にたっぷりと迫りました!
プロフィール
ヤサイちゃん/農園リゾート THE FARM
千葉県出身。東京農業大学卒業後大好きなレンコンを栽培していた石川県の農業法人に就職。2022年にヤサイちゃんオーディションを受験し見事グランプリを獲得。THE FARMにタレントとして所属し活動している。趣味は料理と釣り及びスポーツ全般。長所は、子供受けする性格と、野菜の魅力を伝える表現力。野菜との関係が深い土についての資格である土壌マイスターを取得している。
公式サイト https://yasai-chan.com/
You Tube https://www.youtube.com/@yasaichan831
X https://twitter.com/yasai831chan
Instagram https://www.instagram.com/yasaichan831/
野菜嫌いだった「ヤサイちゃん」、まずは日本の農業を何とかしたい!と農業の世界へ
ーーヤサイちゃんの活動フィールド、千葉県香取市にある「農園リゾート THE FARM」は、どういった施設ですか?
この辺りは、以前は一面農地だったんですが、辞めてしまう農家さんが増えていて耕作放棄地だらけになってしまいました。そこで、活性化のためにいろいろな施設を作ってリゾート地にしよう、という挑戦によって「THE FARM」が誕生しました。
宿泊施設が充実しており、キャンプエリアではキャンプができますし、大人気のグランピングに加え、キャンプが苦手な人にはコテージも用意しており、宿泊をしてじっくり収穫体験などが楽しめます。他にも温泉施設、カフェなどもありますので、日帰りでももちろん楽しめる、複合農園リゾート施設です。
ーージップラインもあって楽しそうですね。こちらの施設には、年間どれくらいの人が来場されるのですか?
日帰り、宿泊合わせると、年間約30万人にご来場いただいています。
ーーすごい人気ですね!宿泊しながら農業体験ができるという施設ということで、ロシアの「ダーチャ※」のような感じですね。「ヤサイちゃんプロジェクト」について小耳に挟んだのですが、この企画がスタートした経緯から教えてください。
※日本語では「農園付き別荘」と訳される。ロシアや旧ソ連圏では一般的で都市在住者が週末や長期休暇を利用して気軽に滞在するセカンドハウス。
きっかけは、プロジェクトのプロデューサーによる「漁業界にはさかなクンというすごい広告塔がいるのに、農業界には野菜の魅力を伝えて広げてくれる象徴的人物がいない。いないのなら、自分たちでプロデュースしよう」という思いから企画が始まりました。「農業をより身近に感じてもらって、多くの人に野菜に親しんでもらう」というコンセプトです。
2022年3月にオーディションの募集があって、書類審査、オンライン審査、最終審査を経て、83人の応募者の中から僕が「ヤサイちゃん」に選ばれました!
ーーおめでとうございます!他には、どういう方が応募されていたのですか?
すごく幅広い世代から応募があったみたいで、小学生から60代の方までいました。「野菜が好きな人」というのが応募基準だったのですが、農業に何かしら関わっている方が多かったみたいです。
ーーちなみに、ヤサイちゃんのご実家は農家だったんですか?
いえ、実家は農家ではなくて、祖父母が家庭菜園をやっているくらいでした。実は、小学生の低学年まで野菜が嫌いな子供で、全然野菜を食べていなかったんです。でも、祖父母と一緒に家庭菜園で農作業をするようになったら、楽しくて、野菜を身近に感じることが出来たおかげで、少しずつ野菜を食べられるようになったのを覚えています。だから、子供のときに農業を体験したのがきっかけで、今があるんだなと思ってます。
ーーなるほど。それで野菜を好きになり、東京農業大学に進学されたんですね?
それが、野菜好きが直接の志望動機というわけでは無いんです。当時は青年海外協力隊に憧れていて、貧困や食料不足の地域に何か貢献したいという思いがあって農大を選択しました。現場で農業を体験したかったので、長期休みを利用して日本各地の農家さんを回って実習させてもらっていたんです。そうしたら、 実際には日本の農家も高齢化や後継者不足、生産量の低下など様々な問題を抱えていて、危機的な状況であるというのを実感しました。それで、海外よりも、まず日本の農業を何とかしようと心に決めました。
ーー卒業した後は、一旦農業に従事されたんですよね?
そうです。僕、子供のころからレンコンを食べるのが大好きだったんです。大学3年の時に実習で行ったレンコン農家で収穫の手伝いをさせてもらったら、本当にハマっちゃって。自分の大好きなものがゴロゴロ出てくる体験をしたら、楽しくてしょうがなかったんです。宝探しの感覚と言ったらいいかな。それからは、レンコン農家ばかり回っていました。最終的には、実習でお世話になった石川県のレンコン農家さんに就職することを決めました。そのレンコン農家さんの作るレンコンは、祖母が作ってくれた大好きなレンコンのてんぷらの味によく似ていて。それが決め手でした。
ーー石川で農業に従事しながら、ヤサイちゃんのオーディションに応募することに決めた、と。その時の思いを教えてください。
応募したしようと決めた時は農業に従事して4年目で、消費者と僕ら生産者の距離がすごく遠いなと感じていました。実は、僕は就農して2年目ぐらいから個人的にマルシェをやっていて、「この野菜高いね」とか「この野菜ってどうやって食べたらいいの?」とか、お客さんと会話することが多かったんです。
ここ最近、肥料やエネルギー価格がずっと上がっているので、農家としてはギリギリの値段で提供しているんですが、お客さんからすると、高く感じちゃうんですね。それに、調理の仕方が分からないから食べようともしない人が多くて、とっても美味しいのに食べないなんてもったいないと思っていました。
折角の農家のこだわりも消費者には全く届かず、「モノ」として届くだけなのが、現場を経験しているとすごく悲しかった。生産者として、もっと消費者に向けて直接アピールできる場があるといいなぁと思っていました。もちろん、売り場に立って伝えることはできますが、ずっと立ち続けられないし、伝えられる人数にも限界があるので。悶々としていたところ、ヤサイちゃんオーディションをSNSで見つけて「これだ!」とピンと来て、応募しました。
ーーなるほど、ここでも日本の農業の現場を良くしたい思いから応募したんですね。ヤサイちゃんオーディションに合格したら、最もやりたかったことは何でしょうか?
子供と一緒に農作業体験をやりたいと思っていました。自分自身、子供の時の農作業経験が今の野菜好き、農業好きに繋がっているので。実際「THE FARM」では、収穫体験が毎日開催されていて、家族連れのお子さんと収穫をしています。農家で働いていた時は、子供と収穫することはなかったので、楽しんでやっています。
ーー収穫体験で、ヤサイちゃんのように野菜好きになってくれるといいですね!ヤサイちゃんとしてデビューしてから、もっとも大変だと思ったことは何ですか?
僕らが伝えたい情報と、消費者の方が知りたい情報のミスマッチには苦労してますね。農業の現場で「こういうこだわりをして、こういう風に育てています、だから美味しいんですよ」と言っても、消費者が知りたい内容とはマッチしてないというのを感じることが多いです。
ツールとして、YouTubeやTikTokを使って配信しているんですが、中々見てもらえないことが多いです。農業は、地味なことの繰り返しが多いですから。かと言って、トラクターを派手に乗り回してインパクトのある映像を撮るなんてことは、ヤサイちゃんのイメージには合わないので出来ません。そういった制約がある中で、農業や野菜の魅力を面白く伝えるために苦労しています。
ーーSNSだと農業というコンテンツはバズりにくいんですね。歌やダンスを取り入れたりするといいかもしれませんね。
実は、「ヤサイちゃん体操」というのがありまして、小さい子供でもできるように振付を考えました。この近辺で大きなお祭りがあったときは、ステージの上に立たせてもらって、子供たちと一緒に踊ったんです。
一種類だけ食べて野菜嫌いになるのはもったいない!
ーーヤサイちゃんの趣味は料理ということですが、得意な料理、おススメ料理は何ですか?
レンコン料理も良く作るのですが、学生時代の4年間中華料理屋でバイトしていた経験があって、中華料理が得意ですね。おススメなのは麻婆豆腐です。白菜やキャベツにブロッコリー、ナスなど何でもいいんですが、野菜をたくさん入れて作ります。味付けも塩風味の麻婆で、塩麻婆というのがあるんですが、辛みが無いので食べやすくて子供も大好き、モリモリ食べてくれます。キャベツや白菜の甘みが出るんですよ。野菜を丸ごと購入して使い切れない場合には、大量消費料理としてもおススメです。
ーー美味しそうですね!今度、子供に作って食べさせたいです。ヤサイちゃんとしてデビューしてから、何か新たな発見や、生活の変化はありましたか?
石川から千葉に引っ越してきて、畑の土の質感が全然違うという発見がありました。千葉県の土は水はけがよくて、肥料を保持する力が強いと感じます。匂いも全然違いますね。千葉県とお隣の茨城県とは、野菜の生産量が全国でそれぞれ3位と2位というすごい大産地なんですね。東京や横浜などの大消費地に近いというのももちろんあるんですが、それだけ多く生産できるだけのいい環境があるんだというのを実感しましたね。
ーーなるほど、土壌マイスターとしての着眼点ですね。
石川にいたときはレンコンの専業農家で働いていたので、9月から翌年3月位までほとんど毎日レンコンばかり食べて生活していたんですが、こちらに来て、この農園内で60品目100種類ほどの野菜を作っているので、いろんな野菜を毎日食べられる環境になったのがすごく楽しいですね。
ーーレンコンメインで、半年も生きられることにびっくりしました!私たち野菜科学研究会でも苦労しているのですが、子供たちが野菜を好きになるいい方法があれば、是非教えてください。
僕がとても大事だと思ってるのが、品種をいろいろと揃えることですね。 なぜかというと、例えばトマトでも、大玉のトマトにミニトマト、甘いトマトに酸味のあるトマトなどいろんな種類がありますが、大玉のトマトを食べて嫌いになっても、ミニトマトなら好きな子もいるかもしれないし。赤いミニトマトはダメでも、黄色いミニトマトなら食べられるかもしれないでしょ?今は同じ野菜でも品種がたくさんあるので、1種類だけを食べて嫌いになってしまうのが本当に残念なので、できるだけ多くの品種を食べて好きなものを見つけてもらえるような環境作りをしていきたいなと思っています。
ただ、真新しい品種は、スーパーなど小売店で取り扱ってくれないことが多いので、生産者側からしても作りにくいというのが現実です。僕としては、農家さんがいろんな品種の栽培に挑戦していけるような環境になるよう手助けしたいですね。子供がいろんな種類の野菜を目にして、その中から好きな野菜を見つけていく、そんな風にしたいですね。
ーー大人の野菜摂取量の低さも問題ですよね。野菜を1日350g食べてもらうには、どうしたらいいですかね?
これはもう、野菜の値段を下げるしかないと思っているんですよ。そのために必要なことは、生産現場と消費者の距離をもっと近くすることですね。農家さんの直売所で野菜を買うことで、安く買えるということもあると思います。
今年(取材は2023年12月)は、猛暑の影響もあって野菜が高い時期が長かったので、収穫体験に来たお客様からも「野菜が高いからあまり食べられないのよ」と言われることが多かったです。でも、生産者からするとギリギリの値段で出していて、これより値下げするともう経営が成り立たないレベルではあるんです。このズレは埋めようがなく、摂取量を増やそうとしたら安く提供するしかないので、生産・流通の現場でももっと工夫する必要があるのかなと思います。
例えば、規格外品はめちゃくちゃ安く扱われるので食べられるのに畑で廃棄されたり、豊作でも規格内品は値崩れを防ぐために出荷制限して価格が高く維持されていることがあるので、こういったことを改善できれば農家も消費者もwin-winの関係になるんじゃないかな、とか。
子供たちの人気者を目指して!日本の野菜の魅力を世界へ
ーー日本の農業の課題と今後の展望について、何かあればお願いします。
農業をやっていた時に本当に嫌だったのは、「豊作貧乏」という現象です。需要と供給の関係があるので当然ではあるのですが、豊作になって、いいことのはずなのに値崩れして農家が逆に痛い目を見るという現象で、これは大きな問題だと思っています。たくさん収穫できたら収穫しただけ儲かるようになれば、農業をやりたい若者も絶対増えると思うんです。でも、現状は豊作だと値段が下がるので、結局収益が同じになるのなら、ある一定量だけ作ればいいと皆考えるので、値段は高止まりで消費者も損をしているんです。
ヤサイちゃんを始めてから、海外の方に会う機会がすごく増えて「日本の野菜はすごく美味しい」と言われることが多いので、海外への輸出もできるようになればと思います。また、最近は有機栽培や農薬を減らして作る農家さんも増えてきていて、海外ではそういう野菜が好まれるので適しているんじゃないかなと。
ーー日本は人口が減少していますが、世界の人口は増えているので、高品質の日本の野菜は世界中でニーズがあるかもしれません。若者にとっても夢のある話に発展するといいですね。最後に、ヤサイちゃんの今後の活動の戦略について教えてください。
皆が口にしたくなるようなキャッチーなフレーズを作り出したり、体操や音楽も作って、まずは子供たちの人気者になりたいですね。さかなクンのような専門知識の深さのレベルには、自分はまだ達していないというのは自覚しているので、野菜に関して絶賛勉強中です。さかなクンのように皆が知らないうんちくを語って、多くの人に野菜に興味を持ってもらうことを目指しています。
そして、農業の現場をもっと伝えたいと思っているので、農家さんをたくさん訪問して農業のお役立ち情報をどんどん発信していきたいですね。先ほど輸出の話をしましたが、SNSで海外向けに日本の野菜の魅力を伝えるということも考えています。
ーー消費者の皆さんに向けて、ヤサイちゃんプロジェクトの活動を通じて一番伝えたいメッセージをお願いします。
先ほど、子供が野菜を好きになるための方法としてもお話ししましたが、大人もいろんな野菜に挑戦して欲しいですね。「食べたことがないから食べない」と敬遠しないで欲しいです。
調理方法が分からない場合でも、大体の野菜は炒めれば食べられますし、最近はネットで検索すればどんな野菜でも調理方法が載っているので、知らない野菜も興味を持って食べてみて欲しいです。僕のSNSでも色々な品種を紹介したり、食べ方の紹介もしていますので、是非参考にして、野菜の魅力を感じていただきたいです!
ーー色々と夢が膨らみますね…!ヤサイちゃんが、さかなクン並みにビッグになることを期待しています。今後とも、活動を応援しています。頑張ってください!