野菜をもっと食べてもらいたい!アイデアを次々と実行していく野菜ソムリエ、根本早苗さん
「家族に野菜を食べてもらいたい!」
食卓を担う人にとっては、切実な思いかもしれません。
でも、日々忙しいし、野菜を買ってもダメにしてしまうこともあるし、せっかく調理しても喜んでもらえないこともあるし…。
会社員時代の同僚たちがワーキングマザーになった時、そんな風に悩む姿を見て、「なんとかしたい!」という思いを抱いた根本早苗さん。
根本さん自身も、母親として日々の食事作りに苦労していたため、一念発起して野菜ソムリエの資格を取得。
冷凍しても、野菜の栄養価は落ちないところに着目して”冷凍推し”となったり、冷凍可能なサラダ「楽ベジstyleサラダ」を開発したり…!
次々とアイデアを形にされていく根本さんに、野菜ソムリエのこと、冷凍野菜のことなどたっぷりと伺いました。
根本 早苗(ねもと さなえ)
野菜ソムリエプロ、楽ベジstyle代表料理研究家/冷凍生活アドバイザー/食生活指導士/料理教室講師
企業の依頼によるレシピ開発、セミナー講師(企業・大学等)、企業コンサルティング等多数実施。第12回野菜ソムリエアワード銀賞受賞。
楽ベジstyleサラダ:https://rakuvege-style.com/
野菜や果物の知識はもちろん、社会に還元する行動力を持つ!「野菜ソムリエ」
ーー野菜ソムリエアワードの銀賞受賞、おめでとうございます!私も会場で発表を拝聴いたしましたが、素晴らしい内容でした。根本さんも取得されている「野菜ソムリエ」は、どのような資格か教えてください。
根本:ありがとうございます。「野菜ソムリエ」というのは、野菜や果物の知識を身につけて、その魅力や価値を社会に広める役目を持っている資格です。2001年に協会が設立されました。
ーー野菜ソムリエの資格の種類も色々あるようですが、どのような分類があるのでしょうか?
根本:「野菜ソムリエ」・「野菜ソムリエプロ」・「野菜ソムリエ上級プロ」の3つに分かれています。スカーフの色でどの資格か一目でわかるようになっていて、それぞれ赤、緑、紫で色分けされています。上級資格になるほど野菜や果物の専門的な知識が必要ですが、それを社会に還元するコミュニケーション能力であったり、開業したり、社会貢献を行ったりといった行動力も資格取得の重要な要素です。
ーー「野菜ソムリエ」の資格を取得するメリットは、どのようなところにあるのでしょうか?
根本:野菜ソムリエ講座の講師の方々は、流通や生産の第一線を担っているリアルな現場の方々なので、最新の情報を教えてくれるんですよね。最先端の動向や、あまり知られていないテクニックとか。
例えば、野菜の保存法や目利き方法というのは、情報は色々なサイトに載ってるんですが、見比べてみると実は、ほとんど同じ内容なんですよ。そう思うと、現場を担っておられる講師の方々から、リアルで正確な情報を教えてもらえるのはいいところですね。
また、野菜ソムリエの資格を持った仲間ができたことは、私の財産になっています。野菜ソムリエは、資格を取得したら終わりという訳ではないんです。都道府県単位で野菜ソムリエのコミュニティがあり、資格取得後も一緒に活動したりして繋がっているのですが、仲間から最新の情報を得たり、仕事を紹介しあったりと協力して取り組んでいます。資格取得者には、農家さん、流通関係者、料理研究家、趣味で取得した人など様々な方がいらっしゃって、すごく刺激を受けています。
受講料は高めですけど、それだけ覚悟を持って本気で野菜ソムリエの資格を活かしたいという人が多く集まっているので、お互い刺激になります。色々な立場の人が色々な分野で活躍できる資格だと思います。野菜に興味を持っている人は多いので、コミュニケーションのきっかけになるところも、野菜ソムリエのよいところですね。周りに1人いると、便利な存在だと知人によく言われます。
働く女性の調理の悩みを解決する、”冷凍推し”!
ーー根本さんが野菜ソムリエプロを目指したきっかけは、どんなことだったんですか?
根本:実は、9年前まではフルタイム勤務の会社員だったんです。料理は好きでしたけど、別にそういった仕事をしていたわけでもないんです。
私には息子がいるのですが、お肉が大好きなんです。仕事が忙しいので、ついつい子供が好きだからと言い訳をして、焼くだけの肉料理が多くなったら夫が太ってしまって。さすがにこれはまずいな、と反省したんです。「もっと野菜を食卓に出せるように、知識を身につけよう」と一念発起して、その年の年末年始の休みを利用し、猛勉強して野菜ソムリエの資格を取りました。それから野菜料理をたくさん出すようにしたら、夫も無事痩せてくれて。やっぱり野菜の力はすごいな、と実感しました。
ーー家族への愛情から資格取得をめざすなんて、根本さんのご家族は幸せですね。野菜ソムリエの取得後は、どのような活動をされているんですか?
根本:折角高いお金を払って資格を取ったので、元を取らなければいけないと思って。野菜ソムリエの受験勉強で学んだ知識を活かし、相乗効果で栄養価が上がるようなレシピを作って、周りの人に紹介していたんです。噂を聞いた他の人からも「是非、教えて欲しい」と言われるようになって、週末に料理教室を始めました。そこから更に口コミで広がって、どんどん生徒さんが増え、週末だけでは間に合わなくなって、遂に会社を辞めて独立してやっていくことにしました。
私は会社勤めをしていたので、働く女性の野菜調理に対する悩みがよく分かるというのが良かったと思います。例えば、「野菜を食べないと」と思って一生懸命作っても、子供や夫に文句を言われ…。「私だって働いて大変なのに、どうして私だけが料理しないといけないのか」と夫婦げんかになったりしますよね。そういう同僚もたくさん見てきて、ニーズが掴めたのは良かったと思います。まずはとにかく家族、特に子供がどんな形でもいいから野菜を食べてくれるようにする。そうすることで、母親の料理のストレスが軽減されるんです。
そこで、「冷凍生活アドバイザー」という資格も取得しました。冷凍すると栄養価減少がほぼ無いということを知って、「冷凍をもっと活用できるのではないか」と思ったからです。野菜は、食べきれなくて冷蔵庫に入れても数日で傷んでしまうので、野菜を買うのを躊躇う人もいますよね。でも、買わなければ野菜を食べることは出来ない。スタートラインに立つことが出来ないんです。だったら冷凍すればいいじゃない、と思いました。
ただ最初、何でもかんでも冷凍していたら、美味しくないものもあるんですね。切り方とか、冷凍前に少し加熱するとか、そういうことを自分で色々検証しているうちにノウハウがたまってきて本を出版できるまでになりました。
『野菜を世界一美味しく食べる! 楽ベジ冷凍レシピ』TJ MOOK 宝島社
ーー料理教室講師から、冷凍野菜のスペシャリストに進化していったんですね。
生徒さんの中にも、野菜は新鮮なものをそのまま食べたいから、冷凍はもったいないという方もいらっしゃいます。私は、その前にまずは栄養たっぷりな野菜をストレス無く食べて欲しいという思いがあって、その手段として冷凍推しをしています。冷凍生活アドバイザーの資格を持っていても、ここまで冷凍を推している方はあまりいないかなと思います。
冷凍のコツは、野菜が古くなって腐る直前に冷凍するんじゃなくて、勇気をもって買ってきたその日に、新鮮なまま冷凍することです。そのまま食べても美味しいものが、冷凍しても美味しいんです。もちろん、野菜によっては下処理が必要なものもありますけどね。今は、料理教室で使用する野菜も冷凍野菜を使うようにしています。
ーー野菜の魅力を一般の方に伝えるために、どのような工夫をしていますか?
根本:料理教室、Instagram、テレビなど、いろんな媒体を使っています。それぞれにあった伝え方があるんですが、まずは「野菜を美味しく食べるのは簡単だよ」と伝えることに重きを置いています。あまり大風呂敷を広げてしまっても身につかないというか、長続きしないので。そのためにも、まずは野菜を買うことですね。
ーー我々のような一般人が知って驚く、とっておきの野菜に関するテクニックを何か一つ教えてください。
根本:たいていの人が驚くのは、きゅうりが冷凍できるテクニックですね。きゅうりはそのまま冷凍すると美味しくないんです。でも、スライサーを使って2mm位に薄く切って冷凍すれば大丈夫です。5mm以上はダメですよ。その際に少量の塩か調味料を何か入れておくのがポイントです。後は、使いたい時に使いたい分だけ自然解凍して使えます。
もう一つのとっておきは、キャベツの切り方です。キャベツを丸ごと1個買った場合、たいていの人は縦にカットして使うと思います。1/2サイズのキャベツも縦にカットしてありますしね。でも、キャベツは絶対に横に切って使って欲しいんです。横に切ると上半分は芯がほぼないので、誰が作っても柔らかくて美味しい千切りキャベツが出来ます。下の部分は芯が多いんですが、ここを冷凍保存しておき、芯に多く含まれている栄養素のイソチオシアネートをしっかり食べて欲しいです。冷凍する場合は、そのまま冷凍すると美味しくないので、ざくざく切ってレンチンする、又はさっと炒めてから冷凍して使ってください。
この二つが常備野菜としてあるだけですごく使い勝手が良くて、何にでもちょい足しできますよ。
当たり前に外でサラダを買う時代、「手抜き」から「手間抜き」へ!
ーー根本さんが今年度の野菜ソムリエアワード銀賞を受賞された際のテーマである「楽ベジstyleサラダ」とは、どのようなものなのでしょうか?
根本:「楽ベジstyleサラダ」は、私の住んでいる横浜の地産野菜を使った冷凍可能なサラダです。鮮度のよい野菜をその日のうちに加工しサラダにして、新鮮なうちに冷凍することで美味しく栄養価の高いサラダを2ヵ月間保存できます。忙しくて調理する時間が無い時のために、家庭でサラダをストックできる商品です。チーズとナッツをトッピングしているので、カルシウムやビタミンEなどビタミン・ミネラルのほとんどを摂取できるのも特徴です。
ーーどういうきっかけで開発をしようと思ったんですか?
根本:先ほどお話ししたように、会社員の時、ママになった同僚たちが「何とかして家族に野菜を食べてもらわなければ」というストレスを抱えていました。でも、忙しいし、これまであまり野菜料理を作ってこなかったから面倒くさいというワーキングマザーが多くて、そんな彼女たちを助けたいなという思いがきっかけでした。最初は料理教室で伝えていたんですが、料理教室に通う時間すらない方もいらっしゃるんですよね。じゃあ、商品化しようと思ったんですよね。
もう一つは、コロナ禍で外出が出来なくなり、これまで年配の親御さんのところに料理をしに行ったり、調理したものを持って行ったりしていた人が、一切行けなくなってしまったという時期がありました。それこそ、スーパーに行くのを控える高齢者の方もいらっしゃいましたからね。それで、「仕送り冷凍野菜」というアイデアを考えたんですね。これがすごく反響を呼んで、仕送り冷凍レッスンが一瞬で満席になりました。親御さんは、受け取ったら食べたいときに解凍するだけで、手軽に野菜が食べられると喜ばれました。
そんな時、横浜市が公募していた新規ビジネスの補助金募集にエントリーしたら、JA横浜さんが興味を持ってくださいました。野菜の新しい活用法としての冷凍に着目して下さったんです。JAさんの協力もあって、楽ベジstyleサラダを開発して販売にこぎつけることが出来ました。
ーー楽ベジstyleサラダの開発時、苦労したことはありますか?
根本:一番困ったのは、野菜の個体差が大きいことですね。横浜産野菜限定にしているので、季節によっては入手出来なかったり、季節ごとに品質がバラバラだったりして一定の品質に仕上げるのが難しいんです。今はまだ、新たに人を雇えるほどの売上が無いので自分一人でやっていますが、加工品のプロの力をもっと借りたいですね。
ーー確かに色々な野菜を使って、同じ品質の製品に一人で仕上げるのは大変ですね。根本さんは、野菜のプロとしてこれまで色んな野菜を取り扱ってきたと思いますが、野菜を取り巻く環境の将来の展望についてお聞かせください!
根本:ちょっと突飛になるかもしれないんでが、サラダは家で作るものではなくて当たり前に出来合いの物を買う時代になっていって欲しいです。
もちろん、今でもサラダはお店で売っています。でも、それを買っている人の中にはサラダくらいホントは自分で作らないと、という罪悪感を抱えている人も多いんです。例えば、台湾では朝食を屋台で食べるのが当たり前のようになっていると聞いたことがあります。そんな感じで、誰もが当たり前に外でサラダを買って食べる時代になっていってほしいです。それが、もっと多くの人がストレス無く野菜を食べることにも繋がります。働く女性をサポートするためにも、野菜の生産者、サラダ製造業者、スーパーなどの販売店が団結して、サラダやカット野菜を買うことは「手抜き」じゃなくて「手間抜き」なんだと、日本人の価値観を変える取り組みをして欲しいと思っています。毎食野菜を食べないと気持ち悪い、という感覚になって欲しいですね。
ーー私たち野菜科学研究会も、根本さんの展望を応援したいです!野菜ソムリエとして今後、実現したいことについて教えてください。
根本:子供に、野菜の本当のおいしさを伝えていきたいなと思います。そのために、離乳期の母親を支援していきたいですね。特に離乳食の半年位の間は重要で、この期間に野菜の美味しさが分かれば野菜好きになると思うので、野菜食べなさいと言い続ける子供との戦いが無くなって、皆ハッピーに過ごせます。
あとは、一生懸命作っている農家さんが報われる社会になって欲しいですね。最近も、野菜の値段がちょっと上がるとすぐニュースになって大騒ぎしていますが、野菜の本来の価値からしたら全然高くないと思います。日本人は、野菜を含め食事にお金を使わないのでエンゲル係数をもっと上げることが当たり前の社会になって欲しいと思います。スマホだとかゲームの課金にお金を使って、貧しい食生活をするのは本末転倒と思います。そういうことも、食育の中で伝えていく必要があるんだろうと思っています。「野菜を毎食食べるが当たり前になること!野菜の価値が上がること!」に貢献して行きたいです。