キユーピー濱千代善規

野菜を手軽に美味しく食べる提案を通じて、世界中の人の健康への貢献を目指すキユーピーのこと、取締役の濱千代 善規さんに聞いてみた!

この記事をシェアする

「愛は食卓にある」でお馴染みのキユーピー。

マヨネーズやドレッシングなど、どの家庭にも一つは商品があるのでは?というくらい身近な企業です。

身近であるが故に、知っているようで知らないキユーピーのこと。

マヨネーズやドレッシングなど、長年、野菜を美味しく食べる調味料を提供してきたキユーピーの野菜に対する思いを、取締役で野菜科学研究会理事でもある濱千代善規さんに伺いました。

濱千代 善規

濱千代 善規(はまちよ よしのり)

キユーピー株式会社 取締役 上席執行役員 イノベーション担当
一般社団法人 日本食品・バイオ知的財産権センター(JAFBIC)副会長
公益社団法人 日本食品科学工学会 代議員
国立大学法人 東京農工大学 客員教授
学校法人 日本女子大学 非常勤講師

野菜に関する技術開発の後押し、アップサイクル。野菜の世界のSDGsをリードしてきた

ーー濱千代さんはキユーピー入社以降、様々な業務を経験されていますが、その中でも野菜に関係するお仕事について教えてください。

まず一つは、知的財産に関わる仕事ですね。野菜に関する技術の特許出願には、たくさん関わってきました。もう一つは研究開発の分野で、介護食の開発を担当していました。介護食というのは、うまく噛めなかったり、飲み込めなかったりする方向けの食事なんです。ごぼうみたいに固くて繊維質が多い食材は、介護の教科書には「嚥下障害(※1)がある方には出してはいけない」と書いてある。でも、いい香りのする旬のごぼうを食べてもらいたいという思いから、工夫して商品化するといったことをやっていました。下処理を工夫して柔らかくした上で、食べやすく細かく切って提供するみたいなことですね。

(※1)食べ物や飲み物を飲み込み、食道から胃へと送り込む動作を嚥下(えんげ)といい、加齢や疾病でうまく飲み込めなくなる状態のこと。

研究開発本部長になった際には、野菜研究のマネジメントをする、後押しをしっかりするということに力を入れていました。具体的に言うと、直接自分で手を動かしたわけではないのですが、その当時、日本は世界と比べて「カット野菜」の技術が遅れていたんです。シャキッとした新鮮なカット野菜を長く日持ちさせる技術が追いついていなかったので、カット野菜開発に関わっていた研究員たちを先進国のオランダに派遣して、日持ち延長技術について随分研究してもらいました。おかげで、カット野菜の消費期限を長くすることができました。それから、LLサラダ(※2)のような商品を超高圧殺菌技術という新技術で、D+20(製造日プラス20日間の賞味期限)まで延長することを実現しました。

(※2)LLとはLong Lifeの略。殺菌などをして、通常より長期間食品を保存できる。

カット野菜

アップサイクル(※3)の領域では、実は、キユーピーグループは日本で1番キャベツを扱ってる会社でして、外葉や芯が工場でたくさん出るので、その有効活用を検討しました。例えば、キャベツの芯をダイス状に切って「キャベツライス」として商品化しました。これは、ご飯に混ぜて炊くとエネルギーを抑えられる上、食物繊維を摂取できるというすぐれものです。他にも、野菜の未利用部を発酵させて作った牛の飼料を、「ベジレージ」という商品として販売しました。これを食べさせると、牛の乳の出がよくなったということで、喜ばれています。

(※3)アップサイクルは、本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること。「創造的再利用」とも呼ばれる。

野菜に関わる従業員は数千人!キユーピーはまさに「野菜の会社」

ーー野菜の日持ち延長やアップサイクルなど、SDGsに関係する研究をリードされてきたんですね!キユーピーグループの野菜に関係する事業について、もう少しお聞きしたいです。事業の内容や売上規模、人員などについて教えてください。

野菜の直接販売でいうと、カット野菜がありますね。でも、それだけではなく、キユーピーグループは本当に野菜に関わる仕事をメインとしているんです。

例えば、主力商品であるマヨネーズやドレッシングは野菜そのものではないけれども、野菜を美味しく食べる、サラダを美味しく食べるという意味では、野菜に関わっています。そして、惣菜事業もしていますが、こちらでもたくさんの野菜を使っています。キユーピーグループは、まさに野菜に軸足を置いたグループなんです。

売上規模でいうと、正確に算出するのは難しいですが、直接的・間接的なものを合わせると、ざっくり2,500億~3,000億円位の規模になるかもしれないですね。従業員がどれぐらい関わっているかというのは、もっと難しいですが、キユーピーグループ全従業員1万人以上の中で6、7,000人ぐらいは野菜に関わる仕事をしているんじゃないかと思います。

濱千代 善規

サラダとタマゴを通じて、世界のリーディングカンパニーへ

ーーなるほど、すごく多くの方が野菜に関わっているんですね。キユーピーグループの目指す姿として、HPには「食と健康への貢献」と記載されていますが、野菜の提供を通じてどのように貢献することを目指しているのでしょうか?

まず、様々なお客様に「キユーピーグループって、自分たちの健康をしっかり応援してくれてる会社なんだね」「1番貢献してくれてる会社なんだね」と思ってもらえるようになりたいです。 その実現のために、100年以上前から創業者の中島董一郎が提唱してきたように、サラダとタマゴを通じて美味しく、楽しく、健康を提供していきます。

戦後、寿命は延びましたが、健康寿命の延びが短いために支援や介護が必要な人が急増しています。そうなると、本人は元よりご家族も大変な思いをしますし、医療経済的にもマイナスです。キユーピーグループは、そこにもしっかり向き合って貢献していきたいと考えています。そのために我々は、「メタボ」「フレイル」「認知症」と、その基盤となる「免疫力」を「3プラス1」と呼んで、今後、重点的に課題解決に取り組むことで、健康寿命の延伸に貢献することを目指しています。

野菜サラダの具体的な健康機能については、ビタミン類がリッチであったり、ドレッシングやマヨネーズをかけてサラダを食べると脂溶性ビタミンの吸収がいいとか、食物繊維が豊富で腸内環境を整えるとか、様々な健康メリットがありますよね。最近、力を入れているのは、サラダから先に食べると食後血糖値の上昇抑制になるという機能の啓発です。

ーー野菜には様々な健康栄養機能があるので、健康寿命を伸ばすためにも、もっと食べて欲しいですよね…!キユーピーグループの基本方針の中の【2030ビジョン】で、「サラダとタマゴのリーディングカンパニー」と標榜しておられますが、具体的にどのような企業になっているイメージでしょうか?

まず、サラダのリーディングカンパニーとは何か、ということなんですが、3つあるビジョンの「世界」という領域の中に書かれています。

どこでリーディングカンパニーになっていくかというと、日本だけでなく世界でなっていくという意思表示なんです。つまり、サラダ領域でキユーピーというブランドが世界中で認知されることを目指しています。

現在、多くの国で事業展開はしていますが、我々の認知度はまだまだ高くありません。そこで、もっとグローバルになって世界でキユーピーブランドが認知されることを目指しています。そのために我々は何をするかというと、サラダの魅力を世界の人々に提供できるような会社になりたいと思っています。

ロメインレタスのサラダ

例えば、サラダ文化の進化を担うというのも、大切な役割です。キユーピーはこれまで、アメリカの西海岸やヨーロッパのトレンドを日本に取り入れて展開してきました。ロメインレタスや水菜など、日本では余りサラダに使われていなかった野菜を新たなサラダの材料、つまり新顔野菜として紹介することにより、認知度が上がって一般化するといったことも手掛けてきました。そういったトレンドを引っ張るリーダーとしての役割はもちろんのこと、今後はオリジナリティーも大切にして、更に進化させていきたいと思っています。

最後に、食べ方の進化、調味料の進化という意味では、これまでに様々なフレーバーのドレッシングを開発してきました。日本発の深煎りごまドレッシングはいまや世界中に浸透していますし、最近ではペイザンヌサラダドレッシングという新しいフレーバーを提供しています。他にも、健康訴求やSDGsの観点から、プラントベースという切り口でも商品提供をしています。

ーーキユーピーには新しい食文化のトレンドを日本に広めてきた歴史があるんですね。「キユーピー人生健康計画」で「サラダを半分おかわり、ゆでタマゴをひとつ」というユニークなキャッチコピーがHP上に掲載されていますが、このキャッチコピーはどのような思いで作られたのでしょうか?

キユーピー「人生健康」計画」

キユーピーグループのコーポレートメッセージは、「愛は食卓にある」ですが、それを具現化するには健康でないといけない。「サラダを半分おかわり、ゆでタマゴをひとつ」というのは、サラダとタマゴは健康増進に寄与するからたくさん食べるように言われても、実際のところ、そんなに食べられない方もいらっしゃいます。日本人の野菜摂取量は推奨量350gに対して、現在280gですが、足りない分サラダをもう一皿食べなさいと言われても、なかなか難しいんです。でも、一皿は難しくても無理せず半分たべましょう、という意図で半分おかわりとしました。タマゴについては、1個食べることによって、しっかりタンパク質も補給できますので、楽しく、無理なく、美味しく栄養補給できるという意味で、このキャッチコピーを作りました。

ーー確かに!無理強いされると嫌になりますし、簡単にできるということは大切ですよね。野菜に関わる企業として、今後、実現していきたい社会があれば教えてください。

キユーピーは何のためにある会社なのか、ということを考えると、言語化されたメッセージとしては「おいしさ・やさしさ・ユニークさ」をもって、世界の人々の食と健康に貢献する、ということを目指す姿として発信しています。

その具体的な形を「2030ビジョン」で示しており、1つ目は「サラダとタマゴのリーディングカンパニー」として、おいしいサラダを提供できる会社、サラダを通して健康を提供できる会社を目指しています。

2つ目は、「食品メーカーから食生活メーカーへ」を目指しています。例えば、カット野菜は食生活を変えた食品だと思っています。災害の時に水が出なくても洗わずに食べられたり、必要な時に必要な分量だけ購入できる、ということも食生活の変革だと思います。これには、先ほどお話した日持ち延長ということにもつながります。

3つ目は、「子供の笑顔のサポーター」ということですが、これから続く未来に対して地球環境を維持するために、アップサイクルや未利用資源の活用を行うことでサステナブルな社会に貢献するということを実現していきたいと思っています。

ーーありがとうございます。最後に、野菜科学研究会に期待する一言をお願いいたします。

今までお話ししてきたことは、野菜を通してキユーピーがこういう会社でありたい、こういうことを貢献していきたいといことを、企業目線でお話してきました。しかし、それだけだと足りないものがあると思っています。

1つは、エビデンスに基づいた客観的で科学的な知識の普及が大切だということです。例えば、企業が発信する情報には、発信する側も受け取る側もバイアスがかかってしまうことがあります。しかし、中立な第三者機関の発信であれば、公正に情報を発信し、受け取ることが出来ると思います。

最近は、ネット上に真偽不明な情報が氾濫しているので、野菜科学研究会には中立で、科学的・エビデンスに基づいた情報を発信していただきたいですね。そして、色んな企業、行政やNPOなどが参加出来るようなプラットフォームになって、一緒に盛り上げていただけるといいなという風に思います。

公式SNS
フォローしてね

このサイトをシェアする