ヤサイビト_岸村康代

「ズボラでOK!」完璧を目指さない「大人のダイエット研究所」代表の岸村さんが教えてくれた、今日から取り組める食と健康のためにできること

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ダイエットしたいけど、続かない。
健康的な食生活を送りたいけど、忙しくて料理している暇がない。

どんなに技術が進歩しても、食に関わるこういったお悩みは尽きないもの。
完璧を目指して挫折したり、気になりつつも後回しになったり…。

しかし、食は健康に直結するもの。
野菜科学研究会としても、忙しい現代の人々が抱える食と健康の問題は、避けて通れないと思っています。

ご自身も、ダイエットとリバウンドを繰り返した経験や、目の前の仕事に追われ、自分のことは後回しにしてしまったことから過労で倒れてしまった経験を持つ岸村康代さん。

そんな岸村さんが代表理事をつとめる「一般社団法人 大人のダイエット研究所」の活動、そして、ご自身の経験から彼女が考える食と健康のためにできること。

多くの悩める現代人たちのとってヒントになるお話を、たっぷり伺ってきました!

岸村 康代(きしむら やすよ)
一般社団法人大人のダイエット研究所 代表理事
管理栄養士/野菜ソムリエ上級プロ
一般社団法人食品機能推進協会 理事

大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業後、商品開発や病院での指導を経て独立。商品開発、レシピ開発、事業開発、栄養監修、講演、メディア出演など多方面で活動。これまで落とした脂肪は合計10トン以上。NHK「あさイチ」、テレビ朝日「林修の今でしょ!講座」、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」など人気番組に数多く出演し、食の情報発信を行う。

忙しさから自身の健康は後回し!20代前半で過労で倒れた経験が原点となる

岸村:
20代前半の頃、無理なダイエットと過労が重なり、救急搬送されてしまった過去があるんです。忙しいと、どうしても健康的な食事の実践が難しいですよね。本当は、そういう時こそ健康的な食事が大切なのに、実践できない、ということを身をもって体験しました。

根底にある背景としては、それよりさらに遡って13歳の時に、リンゴだけを食べるリンゴダイエットというのが流行ったんです。頑張って3日間で3キロ痩せたものの、たった1日で3キロリバウンドしました(笑)あまりの飢餓感から、食欲がコントロールできなくなってしまうんですね。

その後も痩せてはリバウンド、痩せてはリバウンド…、ということを10年以上繰り返し、体調を崩してしまったこともあり、忙しい人のための食の支援をしたいという想いが強くなりました。そんな経験から、2015年に研究所を設立したという背景があります。

岸村:
大学を卒業して最初に勤めた会社が、コンビニのおにぎりの具材を作るベンダー企業でした。入社二日目に突然、社長室に呼ばれて「チリの養殖の鮭を大量に買い付けたからなんとかして売り捌け」と社長から厳命をされまして。「あれ、私まだ入社して二日目なんですけど!?」という状態だったのですが…。毎日、商品開発をして沢山の試作をくりかえし、プレゼン資料を作って、営業同行して、更に工場では製造ラインの立ち上げも担当して、というのをプレッシャーの中、休みなく午前様になるまでこなしていました。そういう毎日が続くと、本当にストレスが溜まるんです。不摂生な生活になっていても健康意識はあるので、昼間は食べることを我慢しているのですが、夜中に耐え切れずにアイスを大量に食べてしまう、といった悪循環の食生活をしてましたね。ある朝、出勤途中に電車を降りた途端に駅で倒れてしまい、気付いたら病院のベッドの上でした。

もう一つ、今の自分の原点となる経験としては、20代後半にしていた病院での栄養指導の仕事があります。その時、状態がすごくひどくなってから来院する患者さんが多かったんです。内科と心療内科だったのですが、そのようなひどい状態になると患者さんに「これを食べなさい、あれを食べなさい、これは食べちゃダメ」という押し付けの指導しかできなくて。自分自身が食いしん坊なので、そういう指導をするのがすごく心苦しかったんです。そうなる前に、なんとか予防できることがあるのではないかという想いがあって、「忙しい大人が、無理なく健康になる」をテーマに、大人のダイエット研究所を設立しました。

食物繊維を明るく伝える!「完璧」を目指さない活動

岸村:
今、「大人の繊活」という活動に力を入れています。健康効果が高いのに、食物繊維の摂取は不足しているんですよね。この活動は、「食物繊維を美味しくたくさん摂ろう!」という一連の取組みですが、2014年に準備を始めて、その翌年に研究所設立とともにスタートしました。

意識しないと、「食物繊維」と「野菜」は十分に摂れないんです。当時はまだ、食物繊維は今ほどのブームになっていなくて、多くの人がその重要性を理解しておらず、全然足りていないという状況でした。食物繊維が多く含まれているのは、少し地味な食材が多いんです。どういう食材に食物繊維が多く含まれているか、また、その食材を使用した簡単で美味しい食べ方の紹介もしています。地味な食物繊維を明るいイメージで伝えたいと思い「繊活」の商標を取り、レシピコンテストなども企画しました。「忙しい人たちが、簡単に作れて、美味しそうに、おしゃれに見える」というのを採点基準にして、ホームページで無料でレシピを発信しています。

次に、「リセットごはんプロジェクト」です。私自身がもともと食いしん坊なので、たくさん食べたい時があるし、お付き合いで食べないといけない時もあります。そういう少しバランスが乱れた時に、リセットしてくれるごはんという考え方です。特に、中食、外食で食事を済ます人は野菜があまり摂取できないんですよね。そういう人を応援したい想いで、食品スーパーや飲食店とコラボレーションして野菜や食物繊維を多く摂れる商品を作ったり、商品を「リセットごはん」認定し、プロモーションして販促支援をしていく取組みなどを実施しています。

リセットごはん弁当

最後に、「ズボラ部」活動です。これも私自身がズボラであることが発端ですが、今はとても忙しい方が多いので、「何でも完璧にやらなくてもいい、ズボラでもいいんだよ」という考えを食生活の中に取り入れようという活動です。”ズボラ部手帳”に加えて”ズボキング”というゆるキャラも制作しました。農林水産省とのコラボ事業で、包丁いらずのレシピや火を使わず電子レンジだけの調理という企画でイベントをしたり、“健康的に、ズボラに” をテーマにレシピコンテストも実施しました。

岸村:
はい、参加者の皆さんからは「ズボラでもいいんだ!」と精神的にすごく楽になった、と言われました。

岸村:
イベントは、OLさんや主婦の方が多いですね。でも、名称に惹かれてか、意外にも男性の参加者もいらっしゃいます。レシピコンテストには、主婦やOLさんに加えてフードコーディネーターの学校の生徒さんや、栄養士や調理師の専門学校の学生さんの応募も多いです。そんなに大々的に宣伝するわけではないですけど、数百単位で集まりますし、レシピを開発していたら、それがきっかけで野菜料理を作るようになりましたと仰ってくださる方も多いですね。動機付け、意識づけということでは、こういう地道な活動も大事だなと実感します。

無理なく続けていけることを目指し、生産者・企業・生活者がWIN-WIN-WINに!

岸村:
「忙しい毎日に手軽にとれる食の研究」を基軸として、最初に手掛けたのは、ヨーグルトを食前、または食後に食べると、血糖値の急激な上昇を抑制するということを、日本で初めて解明しました。この研究は、同志社大学の先生と一緒に論文化もしました。野菜も、食前に食べると血糖値の上昇を抑制することが知られていますが、ヨーグルトにも同じような効果があるんです。「ヨーグルトファースト」と呼んでいます。

二つ目は、研究というほどしっかりとした内容ではなくモニター試験という設計でしたが、おからパウダーをある企業の社員さんに毎日食べてもらいました。結構お腹いっぱいになるまで食べてもダイエット効果があり、その結果は書籍化されたり、メディアでも多く取り上げていただきました。

一番最近の研究で言うと、高カカオチョコレートを食後に食べてもらい、対照群と比較して、食後血糖値の上昇抑制効果が認められたというものがあります。食後に食べても効果があったので、これは面白いということになって。デザート感覚で手軽に食べていただくことで、少しでも健康に寄与できればと願っています。

岸村:
皆さん本当に忙しいですし、ストレスフルな環境で生活されています。そんな中で食事は楽しみでもあるので、美味しいものを手軽に効率よくと考えていくと、健康が後回しになってしまうんですね。健康を意識しすぎて、食事をストレスにしたくないというのが人間の心理だと思います。栄養指導をしていても感じますが、美味しくないと心のシャッターが閉じてしまうんですよね。まずは、ハードルを下げて継続できることが重要なポイントだと考えています。なので最大の障壁は、こうしないといけないとか、頑張らないといけない、という自分自身に課した思い込みかもしれません。無理しすぎて続かないよりも、頑張り過ぎないことが大事です。

対象者の属性によっても、原因は様々です。家族がいる女性だと、家族が食べてくれないのが障壁になっている方も多いですし、若い人の場合だと料理をする、洗い物をするのが面倒くさい、というのが障壁になっている場合も多いです。調理師の専門学校で教えていた時は、食事をお菓子だけで済ませているという生徒さんも多くいました。

健康的な食事は、なんといっても「無理なく続けていけること」が一番重要なので、それを支援できる研究、開発、販促を支援することで、良い商品を作る企業様―生活者―生産者の皆様が、win―win―winになる応援ができればと考えています。

一人の力では難しいことも、思いを同じくする人とともに!

岸村:
ご飯は、数日に一回もち麦入りのご飯をまとめて炊いて保存しているのですが、それと野菜たっぷりの具だくさん味噌汁をよく作ります。仕事で早く家を出る必要がある時は野菜ジュースにしたり、ヨーグルトに野菜のパウダーを入れて食べたりなど、朝、必ず野菜を摂るように心がけています。

野菜ジュース

夕飯は、先程のズボラ飯を大体30分以内で3、4品をなるべく作っている感じです。1~2品は電子レンジ調理を活用したり、1つはそのまま食べられるものを活用したり、フライパン1つで具沢山にすることが多いですね。シンプルな材料で作れるレシピを取り入れて、品数は多く見せつつ野菜を手軽にたくさん摂るようにしてます。ズボラなので、頑張り過ぎないようにしています。

岸村:
例えば、Z世代の場合は「タイパ」という言葉を好んでよく使いますよね。以前、ある雑誌の編集者から「コンビニに行くより簡単な野菜レシピ」という難しい企画を依頼されたことがあります。「コンビニに行くより簡単」なレシピなんてあるのかな?と自分でも思ったのですが、コンビニに買いに行くより早く、動作が少なく出来るレシピという風に解釈して、包丁は使わずに、スライサーやキッチンバサミでカットして、ガスは使わないで電子レンジ加熱のみ、使う調味料もごくわずかで作れるレシピを4、5品提案しました。その記事がすごく好評で、反響が大きかったとフィードバックをいただきました。

岸村:
忙しい若い世代に、「野菜って調理が面倒くさいし、美味しくない」と思い込んでる人、つまり心のシャッターが閉じかかってる人が多いように感じています。そういう人に無理やり頑張って野菜を食べてもらっても、先入観があるので余計に嫌になるという悪循環に繋がります。

ハードルを下げて、まずは少量からでも自分の好きな食べ方、無理のない食べ方で食べてもらうところから始める方が、結果的に長続きします。経験上、「野菜って美味しいし、食べ続けていると心身に良いな」と体感すると、その後自分で階段を上っていってくれるのをすごく感じています。なんでもそうですが、きっかけや体感が大切。自分自身がその良さを体感して納得したり、成功体験があったりすると自然とものごとがいい方向にうまく回り始めるんです。

岸村:
今、食の未来について一番心配しているのは、私たちにおいしい食材を育てて提供してくれている農家さんの平均年齢が、既に70歳近いということです。あと10年後といわず、この数年ぐらいで私たちが当たり前のように食べていた野菜や果物などが、手に入らなくなるとか、すごく高価なものになって一般の人は食べられなくなるという危機が、現実に迫っているということです。

私たちに出来ることとしては、適正な価格で食べて応援することが大事だと思っています。私自身は、食の専門家として野菜の栄養機能、健康機能をもっと発信して、多くの人に知ってもらうことで応援したいです。日本の農業の崩壊をここで食い止めることが、日本人の健康のためにも、農業のためにも大切ですし、今、当たり前のように見ている畑や田んぼなどの自然風景をこれからも守り続けるためにも重要だと思っています。

岸村:
直接の活動ではないのですが、”農業の出口“を拡げるために何ができるかを考え、農家さんや農業の支援をしている企業に賛同してレシピを提供したり、メディアを通して少しでもその良さを知っていただき、手軽に野菜を摂れる工夫を発信するなど、間接的に支援をさせていただいています。

カウントダウンで危機が迫っているけど、どう行動したらいいかわからないというのを多くの方が感じていると思います。農家さんにとって、経済的に安心して、安定的に農業が出来る環境があるというのがすごく重要だと思います。安定して購入していただける出口があると、安心して後を継ぐことができると思うのです。安定供給と出口を拡げるということは難しい課題の1つですが、そのような社会的な連携が、より強く繋がっていくことを切に願っています。

ズボラ部

岸村:
野菜には、解明された栄養成分だけではなく、まだまだ未解明の成分も含まれていて、それを丸ごと食べることで私たちにパワーを与えてくれるものだと思います。食べることで、自分の健康だけではなく日本の農業も応援できるというのが、野菜の魅力。

農業と医療がもっと密接に連携できれば、日本の農業も、日本人も、更に健康になれるのではないかと思っているので、食の専門家としてここを繋ぐような活動を、できることから一つ一つ取り組んでいきたいと考えています。このような大きい社会課題は、一人の力だと難しいので、同じ思いを持っている皆様と一緒に底上げしていけたら嬉しいです。

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