「食材」から「料理」へ!日本の混合食が導く、我慢しない未来の食卓
気候変動への対策として、私たちが何をどう食べるかを見直す必要性が、世界中で話し合われています。
「牛肉を減らそう」「植物由来(プラントベース)の食事に切り替えよう」といった言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。
私たちが食べ物を「作る」「運ぶ」「調理する」「食べる」という全ての過程は、たくさんの温室効果ガスを出しています。
だからこそ、食べ物に関わる温室効果ガスを減らすことが、とても大切なのです
しかし、私たちは「食材」をそのまま食べているわけではありません。実際に口にしているのは、調理され、味付けされた「料理」です。
野菜科学研究会がご紹介するのは、東京大学などの研究チームによる論文(Long et al., 2024)です。
この研究では、日本の食卓でおなじみの45種類の「料理」を分析し、栄養、環境負荷(カーボンフットプリント※1)、価格の3つが、互いにどう影響し合うのか(トレードオフ)が明らかにされました。
特に重要なポイントである「混合食※2」の有効性について解説します。

※1カーボンフットプリント:商品・サービスのライフサイクルの各過程で排出された「温室効果ガスの量」を追跡した結果、得られた全体の量を CO2 量に換算して表示すること
※2混合食:食材を肉、魚介、野菜などに分類するとき、単一の食材から成る料理ではなく、さまざまな食材を含む料理のこと
「食材」ではなく「料理」で考える重要性
これまで提案されてきた、持続可能な食事のガイドラインは、「肉類」や「野菜類」といった大きな食品グループごとの推奨が中心でした。
しかし、この考え方には限界があります。
例えば、同じ「肉料理」でも、次のように大きな差があるからです。
- ステーキ:肉そのものを味わう料理(肉の量が多い)
- 野菜炒め:少量の肉で大量の野菜を食べる料理(肉の量が少ない)
これらは、栄養価も環境負荷も大きく異なるため、より具体的な「料理」に注目して分析を行いました。
分析対象となったのは、日本でよく食べられる45種類の料理で、「牛肉」「豚肉」「鶏肉」「魚介」「野菜」をベースの5つのカテゴリーに分類されています。
食材の生産段階から、調理時のガス使用までを含む「ライフサイクル全体」の温室効果ガス排出量が推計されました。
その結果、牛肉を含む料理は特に「カーボンフットプリント」が高く、豚肉や野菜ベースの料理は比較的低いことが示されました。
興味深いのは、日本の豚肉料理が、一般的なイメージよりも環境負荷が低い傾向にあったことです。
これは、「豚肉のミルフィーユ鍋」や野菜炒めのように、肉の使用量が少なく、白菜などの野菜を多く含むレシピが多いためだと考えられています。
一方、牛肉料理はやはり環境負荷が最も高く、鶏肉や魚介料理がそれに続きました。
また、火を使うなどの調理による環境負荷は全体のごく一部(1.6%〜12.1%程度)にとどまり、環境負荷の大部分は「どんな食材を選ぶか」によって決まることも明らかになりました。

図:主要な料理のカーボンフットプリントの分布(出典:東京大学プレスリリース「混合食は栄養とカーボンフットプリントのバランスを良くする」)
図の左側に並ぶ時計のマークは、各料理の調理時間を15分単位で示しています。水平バーは、1食あたりのカーボンフットプリント(gCO₂換算)を表しています。水平バーの青い部分は調理に関連する直接排出量を示し、赤い部分は食品材料の生産に伴う間接排出量を示しています。5つの料理カテゴリーは、異なる色と形で示されています。複数人分のレシピについては、直接排出量と間接排出量の合計を食数で比例配分しています。
栄養と環境、価格を両立させるには?
私たちが食事を選ぶ際、環境への配慮だけを基準にすることは現実的ではありません。
健康のための「栄養」と、家計のための「価格」も重要な要素です。
論文では、各料理について栄養価(NDS:栄養密度スコア)と価格も計算し、それぞれの関係が分析されました。
- 牛肉料理や鶏肉料理: タンパク質などの栄養価は高いものの、環境負荷と価格も高くなる傾向が見られました。
- 野菜料理: 環境負荷と価格は低いものの、タンパク質などの栄養素が不足しやすいことがわかりました。
ここで注目すべきなのが、いくつかの「例外」的な料理の存在です。
例えば、「豚肉のミルフィーユ鍋」や「サバの味噌煮」などは、比較的高い栄養価を持ちながら、カーボンフットプリントが低く抑えられていました。

図:栄養・価格のトレードオフ・マップ(作図:野菜科学研究会)
最適な食事は「制限」よりも「混合食」の力
では、私たちはどのような食事を目指すべきなのでしょうか。
研究チームは、「牛肉料理のみ」「魚介料理のみ」「菜食のみ」など、16通りの食事シナリオを設定しました。
そして、数理最適化モデルを用いて、一日に必要な栄養を満たしつつ、カーボンフットプリントを最小化する組み合わせを探索しました。
数理最適化モデルとは、数学的な計算を使って、条件を満たす最もよい組み合わせを探す方法のことです。
分析の結果、特定の食品群に制限を設ける厳しい食事スタイルよりも、複数の食品群を柔軟に組み合わせる「混合食」の方が、栄養と環境負荷の両方を満たしやすいことが示されました。
例えば、完全に肉を排除した菜食シナリオでは、葉酸や塩分など一部の栄養基準を満たすのが難しくなったり、逆に特定の栄養素が過剰になったりするケースが見られました。
一方、肉、魚、野菜を組み合わせた混合食では、栄養不足や摂りすぎのリスクを分散させながら、全体として二酸化炭素排出量を低く抑える組み合わせが多数見つかったのです。
これは、多様な食材を取り入れることで、栄養のバランスが良くなったり(アミノ酸スコアの改善)、環境負荷の高い食材を別の食材で補ったりできるためと考えられています。

我慢しない持続可能な食卓
ご紹介した研究結果は、「持続可能な食事=我慢や極端な制限」ではないことを教えてくれます。
むしろ、日本の食文化に見られるような、少量の肉と多種多様な野菜を組み合わせた料理をうまく取り入れる「混合食」のアプローチこそが、私たちの健康と地球環境の両方を守るための賢い戦略となり得るでしょう。
もちろん、この結果は日本固有のレシピや調理法に基づいているため、そのまま他国に当てはまるわけではありません。
しかし、「食材」ではなく「料理」という単位で評価するこの考え方は、各国の文化に根ざした、より現実的な食のガイドラインを作る上で、非常に有効な手法です。
出典)Long Y, Huang L, Su J, Yoshida Y, Feng K, Gasparatos A. Mixed diets can meet nutrient requirements with lower carbon footprints. Sci Adv. 2024;10(15):eadh1077. doi:10.1126/sciadv.adh1077