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銀ナノ粒子による野菜の保存性向上

銀ナノ粒子による野菜の保存性向上

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最近、消臭グッズや抗菌商品などが多く販売されています。
その中には、銀イオン(Ag)を配合していることを謳っている商品もあります。

銀イオンは、さまざまな微生物やウイルスに対して増殖を抑制したり、不活化したりする効果が確認されています。また、微生物の増殖を抑制するため腐敗臭も防止できます。

この銀イオンの抗菌効果を、野菜や果物の保存に利用するための研究が進んでいます。
こちらの学術記事では、銀イオンの有効性、安全性、環境への配慮などについての文献を紹介します。

銀ナノ粒子(AgNP)は抗微生物特性のため、野菜や果物の保存に対して最近、注目されています。
基本的に、硝酸銀(AgNO3)を、還元剤を用いてAgNPに転移させる方法で合成されます。

そのアプローチには、ガンマ線や紫外線を照射することによる物理的還元、没食子酸やL-チロシンなどの化学的還元剤を用いた方法、及び微生物や植物抽出物などの生物学的還元剤を用いた方法があります。特に、生物学的還元法については、毒性の低さ、環境に優しいこと、経済的に実行可能であるなど、グリーンな合成法であると考えられています。
ただし、微生物を利用した場合には、反応時間が大幅に長くなるなどのデメリットもあり、今後の技術的進歩が望まれます。

AgNPは、平均サイズ5~100 nmで抗菌活性を示し、5nmが最も抗菌効果を示しました。
このメカニズムは、AgNPが微生物の細胞内に移行し、細胞内で活性酸素種(ROS)を増加させるためアポトーシス( ※1 )を引き起こします。

なお、AgNPは、グラム陽性細菌よりもグラム陰性細菌の阻害に効果的であることがわかっています。
その他、カビなどの真菌に対しても効果があることが確認されており、サクランボ果実の軟腐病を引き起こすAlternaria alternataの胞子発芽も阻害することが示されました。

AgNPを食品保存に利用する方法としては、フィルム及びコーティングの2つのアプローチがあります。

どちらも抗菌効果を示し、保存期間を効果的に延長することが示されていますが、フィルムにAgNPを配合した場合、フィルムの水蒸気透過性、水溶性、水分含有量が低下します。また、厚みや引張強度に影響することも確認されており、更なる検討が必要です。

食用コーティングに利用する場合には、そのまま摂取するため、特に安全性が重要となります。

現在、細胞や動物を用いた毒性試験により、安全に使用できる濃度の研究が進められています。
一方、特定の生物学的還元剤によって合成されたAgNPには、抗菌効果だけでなく、プラスの効果が報告されています。例えば、アナナス・コモスの果皮抽出物由来では抗糖尿病効果、オリーブ葉エキス由来では抗がん効果などが細胞試験により確認されています。

生物学的還元剤によって合成された AgNP を食用フィルムやコーティングに組み込むことは、果物や野菜の保存中の品質を維持するための持続可能な方法になると考えられます。

My Dong Lieu et al.,Green synthesized silver nanoparticles, a sustainable approach for fruit and vegetable preservation: An overview, 

Food Chemistry: X,Volume 23, 30 October 2024, 10166413, 

https://doi.org/10.1016/j.fochx.2024.101664

※1:アポトーシス:多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自然死のこと。

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