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収穫後野菜の鮮度維持に硫化水素が果たす役割

収穫後野菜の鮮度保持に硫化水素が果たす役割

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多くの野菜は、収穫してから保存中に鮮度が落ちていきます。

保存中に鮮度が落ちるのは、野菜は収穫後も生長し、呼吸や水分の蒸散を続けるためです。その他にも、野菜が自ら分泌するガスが鮮度に影響を与えます。最も有名なのは、野菜が熟して美味しくなることを促してくれる「エチレンガス」です。保存中の野菜が生長とともにエチレンガスを発生し続け、熟成が進み過ぎ、劣化して腐敗を引き起こす原因にもなるのです。

エチレンガスを多く発生する野菜や果物と一緒に保存しておくと、他の野菜も影響を受け傷みやすくなるなど厄介なものです。

この記事で紹介するのは、野菜が自ら分泌するガスの一つである「硫化水素」が野菜の鮮度保持に役立っていることをまとめた論文です。

野菜の生長と発育、老化、収穫後の保存時など、多くの生理学的プロセスに対し、直接的または間接的に影響を及ぼすガス伝達物質が発見されています。特に研究されているのが、エチレン (C2H4)、一酸化窒素 (NO)、一酸化炭素 (CO)、および硫化水素 (H2S) です。

近年、硫化水素は、特に成熟と老化の遅延効果において収穫後の応用について研究されています。植物の成長と発達を調節するだけではないのです。
収穫した野菜の保存期間の延長や、品質を改善するための持続可能な解決策として、硫化水素をどのように使用できるかについてまとめました。

①硫化水素は、活性酸素種の除去と抗酸化物質の代謝の調節を行い、多くの野菜で収穫後の酸化ストレスを改善します。

②野菜収穫後の低温保存時の冷却障害を改善します。

③野菜収穫後の保存中の熟成と老化の制御に関与します。例えばトマトでは、収穫後に硫化水素を使用すると、アスコルビン酸(ビタミンC)含有量、フラボノイド量が増加します。更に、保存期間が延長されました。

④細胞壁を軟化させるペクチン分解酵素の働きを阻害することにより、果実が柔らかくなりすぎることを防ぎます。

⑤褐変による変色の防止と抗菌作用により、変敗を防止します。

このように硫化水素は、低濃度では利益をもたらすと提案されていますが、高濃度では逆に品質劣化をもたらすことがあります。また、ヒトへの安全性も課題であり、50ppmを超える濃度では目や気道の炎症など人体に有害な影響を与えることが報告されていますし、500ppmを超えると死に至る可能性があります。そのため、使用に当たっては安全な濃度の決定や除去について更なる研究が必要です。

Mohammed Wasim Siddiqui et al.,Hydrogen sulfide: Promising applications for postharvest quality improvement of fruit and vegetables, Postharvest Biology and Technology 202 (2023) 112394

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