子どもの食事作り参加は小学生から!〜最適な食育の開始時期に関する研究〜
食育基本法では、子どもの頃の食育は、将来にわたって心と体が健康で、豊かな人間性を育むための土台だと位置づけられています。
これまでの研究から、小学生などの学童期に料理を経験することが、大人になってからの野菜を食べる回数や、食に関する知識に良い影響を与えることがわかっています。
しかし、「具体的に、いつ、どの年齢で食事作りを始めるのが最も効果的なのか」という、最適な時期については、まだはっきりしていませんでした。
そこで、野菜科学研究会では、子どもの頃に食事作りへ参加し始めた時期と、大人になってからの食事の栄養バランスとの関連を、統計的に調べた研究論文をご紹介します。

研究の目的
この論文の目的は、「小学生」「中学生」「高校生」といった子どもの頃の食事作り参加開始時期と、大人になってから「主食・主菜・副菜をそろえたバランスの良い食事」をどのくらいの頻度でとっているかの関連を明らかにすることです。
これにより、大人になって望ましい食生活を送るために、いつ食事作りを始めるのがベストなのかを検討しています。
研究方法
対象となったデータ:農林水産省が2019年に実施した「食育に関する意識調査」のアンケートデータ。
調査方法:分析の対象は、全国の20歳以上の男女1,721人、ある一時点のデータを分析する横断分析(二次分析)という方法を用いています。
調べた要素:
- 食事作り(準備や後片付けを含む)を始めた時期を、「小学生の頃」「中学生の頃」「16〜18歳の頃」「不参加」の4つのグループに分けて比べています。
- 現在の食事が「主食・主菜・副菜がそろっている頻度」を、「ほぼ毎日」「週に4〜5日」「週に2〜3日以下」の3段階で評価しています。
- 結果が偏らないよう、性別、年代、家族構成、仕事の有無、一人で食べる頻度、時間的・経済的なゆとりなどの影響を統計的に調整しました。
- 複数の要因から、ある行動をとる「なりやすさ」を調べる多項ロジスティック回帰分析(※1)という統計手法を用いて、オッズ比(OR)を算出しています。
オッズ比(OR)は、「なりやすさ」を数値で示したものです。
※1 結果が「3つ以上」のグループに分かれているとき、「ある要因(原因)」が、その結果のどれかを選ぶ「なりやすさ」にどれくらい影響しているかを調べるための分析です

結果:小学生の頃からの開始が最も良い
分析の結果、大人になってからも食事の栄養バランスが良い人、つまり主食・主菜・副菜を「ほぼ毎日」そろえて食べている人が多かったのは、「小学生の時期」から食事作りに参加していた人たちだけでした。
こちらは、論文で提示された解析結果を分かりやすく図にまとめたものです。

従属変数を「主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度(基準:週に2〜3日以下)」、独立変数を「子どもの頃の食事作りへの参加開始時期」とする多項ロジスティック回帰分析を行った。
*1)論文中ではモデル2を用いており、性別(男性、女性)、年代(20歳代、30歳代、40歳代、50歳代、60歳代、70歳代以上)、同居家族の有無(同居家族あり、一人暮らし)、就業状況(仕事あり、仕事なし)、1日のすべての食事を一人で食べる頻度(ほとんどない、週に1日程度ある、週に2〜3日ある、週に4〜5日以上ある)、暮らしのゆとり(ゆとりがある、どちらともいえない、ゆとりがない)、時間的なゆとり(ゆとりを感じる、どちらともいえない、ゆとりを感じない)を調整変数として投入した(多変量解析)。
*p<0.05,**p<0.01。
食事作りに「不参加」だったグループを基準(OR: 1.00)とした場合、「小学生の頃」に開始したグループが大人になってバランスの良い食事をほぼ毎日とるオッズ比は 1.81 であり、統計的に見て大きな差があることがわかりました。
一方で、「中学生の頃」(OR: 1.53)や「16〜18歳の頃」(OR: 1.11)に開始したグループでは、不参加グループとの間に統計的に「はっきりとした差がある」とは言えませんでした。
考察:なぜ「小学生」の頃からが大切なのか
論文では、小学生の時期が最適である理由について、主に以下の2点から考察されています。
1.習慣にしやすいライフスタイルの観点
中学生以降は、部活動や受験勉強などで忙しくなり、精神的・時間的な余裕が減ります。実際に、小学生の頃に参加していなかった人が、中学生以降に新しく参加する割合は1割未満でした。
比較的時間に余裕のある小学生のうちに食事作りを始め、「習慣」として身につけておくことが、大人になってからの継続につながると考えられます。
2.自信や自己効力感を育む発達心理学の観点
小学生は、体の機能や論理的に考える力が発達し始める時期です。簡単な調理や配膳などの役割を担うことができます。
食事作りを通して「家族の役に立った」という経験が、自己効力感(Self-efficacy、自分はできるという自信)や自尊感情を高め、これが大人になってからの健康的な食生活を支える土台になっている可能性が示唆されています。

研究の限界
この研究は、ある一時点のデータを調べる横断分析であるため、「子どもの頃の食事作りへの参加が、直接、成人後の食事バランスを良くした」という原因と結果の因果関係を断定することはできません。
また、子どもの頃の経験は、回答者自身の記憶に基づいて答えているため、実際の体験と記憶にズレが生じている可能性があることにも注意が必要です。
さらに、「食事作り」が調理だけでなく、準備や片付けまで含むのかどうかなど、定義が回答者の主観に委ねられている点も限界として挙げられています。
結論
研究の限界はあるものの、大人になって望ましい食生活を送るために、小学生の頃から食事作りに参加することが最も効果的である可能性が高いことが示されました。
この知見は、家庭や学校などの教育現場で食育を行う際に、早い時期からの働きかけが重要であることを裏付けています。
出典)Ono, H., & Akamatsu, R. (2025). Timing of starting participation in meal preparation and dietary balance in adulthood. The Japanese Journal of Nutrition and Dietetics, 83(5), 206–214.