第2回野菜科学研究会シンポジウムを開催しました!
野菜は、私たちの毎日の食生活に欠かせないものになっています。野菜をより美味しく、より育てやすくする背景には、私たちのさまざまなニーズに応えるための絶え間ない研究と開発があります。
2025年8月28日、東京農業大学で「未来の食卓を豊かにする野菜の品種・育種」をテーマに第2回野菜科学研究会シンポジウムを開催しました!
当日は88名の方にご参加いただき、野菜などの種子や苗を研究開発・生産・販売する企業や生産者など各界の第一人者の方が登壇し、最新情報の共有と活発な議論が交わされました。こちらの記事では、当日の講演内容の一部をご紹介します。
各講演につきましては、こちらから当日の要旨集をご覧いただけます。

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多様化するニーズに応える新品種開発
基調講演では、東京農業大学の馬場正教授が「カット野菜が農業を変える!」をテーマに登壇しました。時短志向の高まりとともに、「カット野菜」の市場規模は3,000億円を突破しています。
講演の中では、保存や鮮度保持のための「包装技術」や、加工に適したキャベツやレタスの新品種開発が農業現場にも変化をもたらしていることが紹介されました。
続いて、同じく東京農業大学の松本隆客員教授は、「経験ゼロからの『ゲノム編集』」をテーマに講演されました。「ゲノム編集」とは、DNAの特定の部分を意図的に変える技術のことで、品種改良に新たな可能性を与えます。
松本教授は、この技術を使って「ハツカダイコン」の葉の表面に生える小さな毛である「毛茸(けが)」をなくした品種を作り出した研究例を紹介しました。
この手法は、ほかのだいこんの品種改良にも応用できる可能性を秘めており、今後の展開が期待されています!
市場の裏側から見える野菜の「本当」
豊洲市場の卸売会社、東京シティ商事株式会社の吉野智子氏は、「野菜好きに伝えたい!豊洲市場青果卸のホント!!」と題して登壇しました。
普段、セリ場で着用している法被姿で登場し、市場の知られざる裏側について教えていただきました。生産者の思いを消費者に伝える「セリ人」のリアルな一日を通して、市場が単なる売買の場ではなく、人と人とのコミュニケーションで成り立つアナログな場所であることが生き生きと語られました。
伝統と科学が解き明かす野菜の魅力

信州大学の松島憲一教授は、「トウガラシの歴史と科学」をテーマに、その奥深い世界について解説しました。
人類は、約6,000年前からトウガラシを食べてきたとされています。日本には安土桃山時代に伝わったという説が有力で、江戸時代にはさまざまな品種が栽培されていたそうです。
辛味成分である「カプサイシン」の謎、「ピーマン」や「ししとう」が辛くない理由についても、ご自身のお子さまと行った自由研究のお話を交えつつ、最新の研究成果をわかりやすく説明いただきました。
生食用とはここが違う!ジャムに適したいちご育種の最前線

アヲハタ株式会社の若狭直樹氏は、「加工用いちご品種の育種」について講演しました。
私たちが普段目にする生食用のいちごと、ジャムなどに使われる加工用いちごでは、求められる特性が大きく異なります。
加工に適した色や香りを保つための品種開発の最前線が紹介され、交配による育種では、新品種の開発に長い年月がかかることなど、地道な研究開発の実情が語られました。
参加者の野菜摂取量は?ベジメータ測定結果を公開
講演の合間には、参加者自身の野菜摂取レベルを推定できる「ベジメータSE®(※)測定会」が行われました。
(※)「ベジメータSE®」
ベジメータ®は、光を使った光学的⽪膚カロテノイド量測定装置(圧⼒介在反射分光法、⽶国特許)です。
当日は、計51名の方が測定に参加しました。
参加者の平均「ベジスコア」は419で、これは一日あたり推定293gの野菜摂取量に相当します。この数値は、令和5年の国民健康・栄養調査の全国平均(256g)よりは高いものの、国が目標とする350gには届いていませんでした。
判定結果の内訳を見ると、目標の350g以上をクリアした「A判定」以上の方は全体の22%にとどまり、残りの78%は野菜不足という結果に。
日々の食生活を客観的な数値で振り返ることで、研究の話題がより身近に感じられ、参加者の今後の食生活や健康管理の参考になったと好評でした。


今回のシンポジウムでは、「ゲノム編集」のような先端技術から、私たちの身近な「カット野菜」やいちごの育種、市場のダイナミズムまで、さまざまな視点から野菜の品種・育種の現在地が示されました。
より良い野菜を未来の食卓へ届けようとする専門家たちの情熱に触れ、普段何気なく口にしている野菜一つひとつに込められた物語を、改めて考えるきっかけとなる一日でした。