学術情報

ベトナムの学校給食における野菜摂取量向上のためのメニュー多様化の効果

この記事をシェアする

ベトナムの学校給食では、深刻な課題があります。
提供される食事のおよそ23%が食べ残されており、その廃棄物のうち半分以上(58%)野菜が占めているのです。学校給食は、生徒が一日に必要とする栄養の30〜40%を賄う重要な役割を担っており、健康的な食習慣を育む上で不可欠と考えられています。

しかし、ベトナムの給食では、使われる食材の種類が少なく、メニューが単調になりがちであることが、食べ残しが多い原因の一つとして指摘されています。

例えば、日本の学校給食が年間190回の食事で376種類もの食材を使うのに対し、ベトナムでは53種類の食材で23種類のメニューを繰り返しているのが現状です。

特に野菜は、炒め物かスープとして提供されることがほとんどで、生徒たちの食欲を十分に引き出せていないのではと考えられています。

「知識」だけでは変わらない食行動

これまで、給食の食べ残しを減らすために栄養教育なども行われてきましたが、生徒たちの知識だけが増えても、実際の野菜摂取量にはなかなか結びつきませんでした。

そこで、ある研究チームは、野菜の提供方法を多様化し、他の食材と創造的に組み合わせることで、追加のコストをかけずに生徒の野菜摂取量と食事への満足度を高められるのではないか、という仮説を立てたのです。

この仮説を検証するため、ホーチミン市郊外の公立小学校に通う5年生40名を対象とした「クロスオーバー研究」と呼ばれる科学的な手法で調査を行いました。

新メニュー開発と実験デザイン

まず、既存のメニューで提供されていた100gの野菜(1〜2種類)を、栄養価とコストは同じに保ったまま、より多くの種類の野菜を使った小皿料理に分け、肉や魚、米と組み合わせた五つの新しいメニューが開発されました。

次に、参加した生徒を二つのグループに分け、四週間にわたって食事を提供しました。

片方のグループは「既存メニュー」を先に、もう一方は「新メニュー」を先に食べ、途中でメニューを入れ替えるという方法です。

評価は、食事の見た目や味などに関する五段階のアンケート(官能評価)と、調理前後および食べ残しの重さを精密に測ることで行われました。

図1. 試験方法

研究から見えてきた三つの重要な発見

この研究から、以下の三つの重要な結果が得られました。

  1. メニューの質の向上:新メニューは、既存メニューと同じコストでありながら、使用する食材の種類を1.6倍、特に野菜の種類を3.1倍に増やすことに成功しました。

  2. 満足度の向上:生徒たちによるアンケート評価では、新メニューが「色」「匂い」「味」「食感」「総合評価」のすべての項目で、既存メニューよりも有意に高いスコアを獲得しました。

  3. 摂取量の増加:新メニュー期間中、生徒の平均野菜摂取量は81.5gとなり、既存メニューの71.1gから平均10.4gも有意に増加しました。※図2
    さらに、対象生徒の約90%で野菜摂取量の増加が見られ、野菜だけでなく、エネルギーや他の栄養素の摂取量も向上したことが確認されました。
図2. 野菜摂取量の比較

なぜ、新メニューは受け入れられたのか?

この研究結果は、野菜を単体で出すのではなく、多様な野菜や他の食材と組み合わせることが、生徒たちの食事への受け入れを劇的に改善することを示しています。

この成功の要因として、料理の彩りが豊かになり、見た目の魅力が向上したことが挙げられます。

さらに、科学的な観点からは「うま味の相乗効果」が大きく貢献したと考えられます。

野菜に豊富な「グルタミン酸」と、肉や魚に豊富な「イノシン酸」が組み合わさることで、料理全体の風味が格段に向上し、生徒たちの味覚に強く訴えかけたのです。

グルタミン酸は昆布だしなどに含まれるうま味成分で、イノシン酸はかつお節などに含まれるうま味成分です。

コストをかけずに実現できる、実践的な解決策

このアプローチの最大の意義は、追加コストをかけずに実現可能である点です。

食材の種類を増やすとコストが上がるというこれまでの常識を覆し、既存の食材を賢く再配分するだけで、食事の質と生徒の満足度を同時に高められることを、この論文は証明しました。

こちらの記事で紹介した方法は、学校給食の改善における経済的な壁を取り払う、非常に実用的な戦略と考えられそうです。

結論として、学校給食において野菜の組み合わせを多様化することは、生徒の野菜摂取量を増やし、健康的な食習慣を育むための、極めて効果的かつ実践的な解決策であることが示唆されています。

参考:Truong AT, Pham ATL, Nguyen TQ, et al. Enhancing Vietnamese Students’ Acceptance of School Lunches Through Food Combination: A Cross-Over Study. Nutrients. 2025;17(8):1385. Published 2025 Apr 20. doi:10.3390/nu17081385

公式SNS
フォローしてね

このサイトをシェアする