母子の血清カロテノイド濃度と乳児のアトピー性皮膚炎発症との関連について
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)とは、かゆみを伴う湿疹が、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性疾患です。
アトピー性皮膚炎では、外部からのさまざまな刺激、乾燥などから体の内部を保護する皮膚の”バリア機能”が低下していることや、皮膚に炎症があることが分かっています。(※1)
アトピー性皮膚炎は、一般に乳幼児・小児期に発症し,加齢とともにその患者数は減少すると考えられています。しかし、発症の原因については未だはっきりしたことは分かっていません。
今回紹介する研究は、妊婦およびその子の⾎液と⺟乳中のカロテノイド濃度を測定し、アトピー性皮膚炎発症(以後AD発症)との関連を調べた千葉大学の報告です。
本研究は、アレルギーの家族歴を持つ267名の妊婦と生まれた新生児が参加したコホート研究です。
妊娠36週の妊婦、およびその新生児(臍帯⾎及び1歳時点)の⾎液と⺟乳(初乳・1か⽉・6か⽉)を採取し、カロテノイド(総カロテノイド、ルテイン、ゼアキサンチン、βクリプトキサンチン、αカロテン、βカロテン、リコピン)、レチノール(ビタミンA)、α-トコフェロール(ビタミンE)の濃度を測定。その結果と、医師の診断による1歳時のAD との関連を検討しました。
その結果、⾎液と⺟乳中のすべての測定時で、1歳時のAD発症者の総カロテノイド、個別のカロテノイドの濃度は非発症者よりも低く、いくつかの測定時で統計的に有意な差が認められました。一方でレチノールとα-トコフェロールにはそのような差は認められませんでした。
野菜はカロテノイドを多く含むため、野菜摂取量とヒトの血液中のカロテノイド濃度には相関があることが知られています。また、妊婦の⾎中カロテノイド濃度と、出⽣時の児の⾎(臍帯⾎)中カロテノイド濃度にも明らかな相関があることから、妊婦の野菜からのカロテノイド摂取が、新生児に影響していることが⽰唆されます。
今後の展望として、妊娠中・授乳中の⺟や離乳後の乳児にカロテノイドを補給することが、乳児期のAD 発症を抑制できるかどうかを検討するために、介⼊試験等さらなる研究が必要です。
◆こちらの論文で紹介したカロテノイドを多く含む野菜には、こんなものがあります。
ルテイン :ほうれんそう、ブロッコリー
ゼアキサンチン :パプリカ、ほうれんそう、とうもろこし
βクリプトキサンチン: とうがらし、赤ピーマン
αカロテン・βカロテン :にんじん
リコピン : トマト
Yuzaburo Inoue et al.,Maternal and infant serum carotenoids are associated with infantile atopic dermatitis development, Allergy. 2023 Mar 30, PMID: 36997306
DOI: https://doi.org/10.1111/all.15730
※1
国立成育医療研究センター アトピー性皮膚炎https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/atopic_dermatitis.html