お腹の赤ちゃんの体質は「食卓」がつくる!妊娠期の栄養研究者・金高有里先生が語る、野菜・果物と次世代の健康
「お母さんが食べたものが、お腹の赤ちゃんの未来の体質をつくる」
近年、妊娠期の栄養環境が子どもの生涯にわたる健康リスクに影響を与えるという「DOHaD(ドーハッド)説」(※1)が注目を集めています。
葉酸サプリメントの過剰摂取リスクから腸内細菌と水素ガスの関係まで、その研究の最前線に立つのが、札幌保健医療大学教授の金高有里先生です。
先生はフルーツマエストロ協会常務理事・中央果実協会理事として果物の普及啓発にも携わるほか、子ども食堂「nipocafe(ニコニコぽかぽかカフェ)」の代表として地域の食育活動も精力的に続けています。
今回のヤサイビト特別編では、サプリより「丸ごと食べること」が体に良い理由、世界の食トレンドと日本の現状のギャップ、そして果物を「未来への投資」と捉える視点まで、幅広くお話を伺いました。
(※1) DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease):健康と疾患の発達起源説。妊娠期・乳幼児期の環境が生涯の健康リスクに影響するという考え方。

金高 有里(きんたか ゆり)
札幌保健医療大学 保健医療学部 栄養学科 教授
NPO法人青果物健康推進協会 理事、北海道ガストロノミックサイエンス研究会 理事、日本DOHaD学会 理事。
一般社団法人フルーツマエストロ協会 常務理事、公益財団法人 中央果実協会 理事。妊娠期の栄養とDOHaDを研究テーマとし、「nipocafe(ニコニコぽかぽかカフェ)」の代表としても活動。
サプリより「丸ごと食べる」が体に良い理由。腸内細菌と水素ガスが赤ちゃんを守る
ーーまず、先生のご研究の核心についてお伺いします。サプリメントも適切に摂りながらも、野菜や果物を「丸ごと食べること」が妊娠期に特に大切だとおっしゃっていますが、それはなぜでしょうか?
金高:
食事調査を行ったところ、多くのお母さんが普段の食事から葉酸をあまり摂れていないことがわかりました。だからこそ、野菜や果物を「ホール(丸ごと)」で食べることには大きな価値があります。食事由来の天然の葉酸であれば過剰摂取のリスクが低く、食物繊維やポリフェノールも一緒に摂ることができるのです。

ーーなるほど。では、先生が注目されている「フラクトオリゴ糖」や「水素ガス」の働きについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
金高:
研究では、葉酸の過剰摂取が胎児に酸化ストレスを与えることがわかってきたのですが、フラクトオリゴ糖(※2)を一緒に摂ることでその酸化ストレスを抑えられることも確認されました。フラクトオリゴ糖が腸内で発酵されると水素ガスが発生します。この水素ガスが体内で利用されて、胎児にとって良い影響を与えているのです。将来的には、この水素ガスを非侵襲(体に負担をかけない)の生体指標として活用できるのではないかと考えています。
(※2)フラクトオリゴ糖:タマネギ・バナナ・ゴボウなどに含まれる食物繊維の一種。腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境を整える働きがある。
「本物の食べ物」を次世代へ。世界の食トレンドと日本の現実とのギャップ
ーー世界的には「Eat Real Food(本物の食べ物を食べよう)」や「プラネタリーヘルスダイエット」など、植物性食品を増やそうという動きが加速しています。先生の研究は、そうした流れを科学的に後押しするものでもあると感じますが、いかがでしょうか?
金高:
日本は「早くて安く食べられるもの」に走ってしまい、加工食品が急速に普及しました。でも、本来は、穀物や野菜などの加工されていない食材から調理して食べることが原点のはずです。加工食品を必要に応じて受け入れながらでいいとは思いますが、その原点を大切にしながら、バランスをとっていくことが重要だと感じています。
ーーそうした流れの中で、日本の現状についてはどのようにご覧になっていますか?
金高:
例えば、日本人が大事にしてきた鰹節からのだしの取り方も、過去のものになりつつあります。節分やひな祭りの意味も、合わせて伝えていくことが大事ですよね。私は「ペイフォワード(恩送り)」という言葉が好きなんです。先祖代々受け継がれてきた命への感謝として、私たちができることは、食の原点を次世代へ引き継いでいくことだと考えています。

ーー先生の調査でも、多くの女性が「1日の果物摂取目標量(200g)」を知らないという結果が出ていました。研究者・教育者として、今の若い女性や子育て世代の「果物・野菜離れ」をどのように見ていらっしゃいますか?
金高:
食文化をつないでいく上では、やはり「食卓」が大事になります。普段から食卓に果物や野菜が並んでいれば、それがない状態に気づけますから。もちろん、価格の問題も大きいですし、需要と供給のバランスが価格高騰に影響しているのも事実です。だからこそ、「食べましょう」と「作りましょう」を同時に進めていく必要があります。
妊娠を希望する方の果物摂取量が少ない現状もあるのですが、果物が妊孕性(※3)に良い影響を与え、逆にファーストフードは妊娠を遠ざけるという研究結果も出ています。パッと見ると果物は高いと感じるかもしれませんが、「未来への投資」と捉えれば、決して高くないはずです。こうしたことをしっかりと伝えていきたいですね。
(※3) 妊孕性(にんようせい):妊娠しやすい力・能力のこと。
地域の食卓から未来へ。nipocafeの挑戦とエビデンスで変える日本の食
ーーここからは、研究室を飛び出した活動についてお伺いします。先生は札幌で「nipocafe(ニコニコぽかぽかカフェ)」を主宰されています。管理栄養士を目指す学生さんも一緒に活動されていますが、どんな「学びの循環」が生まれていますか?
金高:
nipocafeのメニューは、お母さんと胎児に必要な栄養を考えて、管理栄養士を目指す学生が考案したものです。必然的に野菜の量が多くなるのですが、「1日に必要な野菜350gがどのくらいの量かわからない」というお母さんが多いので、実際に体感できるような取り組みにしています。レシピもお渡しして家で作っていただけるようにしており、行動変容のきっかけになっていると感じています。

ーー来店されるお母さんたちのリアルな反応はいかがでしょうか?
金高:
お母さんたちからは「ここに来たら野菜が摂れるし、罪悪感がない」という声をよくいただきます。リラックスしに来たけれど、自分の気づきもある場になっているんですね。お母さんは自分の食事が後回しになりがちですが、自分が健康でいることも家族にとって大事だと気づいてほしいです。
学生が参加することで、お母さんたちも人生の先輩として子育ての話をしてくださったり、学生と子どもが一緒に遊ぶ様子を見て成長を感じてくださったり。学生側も自分の食事を見直すきっかけになっていて、相互に支え合いながら成長できる場になっています。

ーー最後に、果物の未来についてお聞きします。消費者の間には「果物は太る」「贅沢品」といったイメージも根強くあります。フルーツマエストロ協会・中央果実協会の理事として、これからの日本の食卓に向けてどのようなメッセージを発信し、どんな伝え手を育てていきたいとお考えですか?
金高:
果物は自分や次世代の健康に返ってくる「未来への投資」だと思っています。糖尿病リスクの低減など、エビデンスに基づいた発信が大事です。「果物の中には果糖が多いので体に悪い」と判断する方もいますが、丸ごと食べることで食物繊維やポリフェノールも一緒に摂れるので、良い影響もたくさんあるんです。
私が常務理事を務めるフルーツマエストロ協会は、果物を1日50gしか摂れていない世代に、エビデンスとともにその大切さを伝えるために設立されました。エビデンスで摂取量を増やすことが生産者のモチベーションアップにつながり、需給バランスの改善にも向かうと考えています。すぐには変えられないことも多いですが、様々な機関と連携しながら、一歩ずつ進めていきたいと思っています。
金高先生の共著『食を育む まんまカルタ』
料理、栄養、食習慣、行事、食体験、感謝の心などをテーマに、カルタ遊びを通して、食べ物と人・地域・自然とのつながりを知ることができます。
